拠り所‐じゅっこめ
カタンカタンとキッチンで音がなり続ける。
明かりがキッチンだけを照らし、若干の影が立ち込めている。
そういった音のたび、野菜は小さくなり、その代わり個数は増えていく。
「あの、私・・・手伝ってもいいですか?」
「いいわよ。手、気を付けてね。私も、ほらっ、さっきちょっと切っちゃった。」
「ヴァーゼさんもミスすることあるんですね。」
「そらそうよ。私だって一児の母であり、人間だもの。」
アキナが包丁に手を伸ばす。次にはガタンガタンと音を立てながら、野菜を刻んでいく。
「今日も、カレーよ。カレー、カレー。」
「楽しみです。」
ははっと笑い、アキナが答える。
「そういえば、あなたとアスカさん、恋人?」
「ち、違いま・・・・・うん、違います。アスカはその・・・・昔、私の故郷に来たことがあって、その助けてくれたっていうか、救い出してくれたっていうか。だから恩人です。まだ、そんな・・・・。」
「まだ、ね。」
「ヴァーゼさん意地悪ですよ。」
「もう」と片方の頬を膨らませ、力任せに根野菜を両断していく。
「なんだか、私とも重なるなぁ。」
「私とも?」
「そう、私も村から逃げてきたのよ。レパラトゥーア、私の夫もね、故郷の外からやってきたの。それで、結婚っていう話までいったんだけど、母さんがよそ者は信用ならないって、そんな感じで認めてくれなくって。だから村を出た。なんだか似てるでしょ?」
ヴァーゼは、部屋の隅にある一つの写真立てに目を凝らす。そこにはヴァーゼと、一人の男の姿が映っている。しかしそこには千切られた跡があり、今あるよりも大きな写真であったことが分かる。
「まぁ、でも幸せだったけどね。なんやかんや。今もあなたたちがいてくれて、なんとか気が紛れてるわよ。改めてありがとうね。」
そんなそんなとアキナが両手を振ると、包丁を持ちながらであったことを注意される。
ヴァーゼはふふっと笑いながら火をつける。
「私も、なんだか楽しくって、久しぶりになんか心が温まるっていうか・・・・この時間も思い出になります。きっと。」
ここでしばらく会話が途切れる。そのせいか外にいるアスカの声が鈍く聞こえてくる。
窓には、せっせと穴を掘るアスカとイエレナが収まっている。
穴を掘り、いつぞやに割れた食器やらを萎れる花束の横に埋めていく。
土を被せると、アスカとイエレナ役目を終え、家へと戻ってくる。
「おっ!今日、カレーかぁ。楽しみだな。」
そう言いながらイエレナを見る。
静かにうなずき、一休みするため、椅子に腰かける。
アスカ、イエレナ、そして調理を終えたヴァーゼ、アキナが座る。熟睡しているヴァサーをそのまま寝かせておき、食事を済ませていく。
その後はひとり、またひとりと、それぞれの一日の締めくくる行動をしていった。
数時間が経ち、とっくに月の光が見え始めてからヴァサーが目を覚ます。
ぽつり、ぽつりと寝静まる夜を歩き、ひとりの肩を揺する。
「・・・・・?・・・・・なあに?」
肩を揺らされたアスカ、片目を何とかあけながら、体を起こす。
「おなか減った。」
「・・・・・ああ、ご飯ね、ちょっと待ってて。」
そう言うと、ヴァサーを連れて、キッチンに足を運ぶ。残されたカレーをよそい、冷めきったコメを盛り付ける。
ヴァサーは、夜の空気を飲み込みながら静かに待つ。そして用意されたカレーが目の前に出されると、大事に大事に口に運んでいく。
そんな中、カチャカチャとスプーンと歯の当たる音をかき消しながら一つの足音がリビングへと近づいてくる。
何となくではあるがアキナは、ヴァサーを抱え、キッチンの影に身を潜める。
ちらりと見ると、先ほどまで座っていたところに、ヴァーゼがひとりうつ伏せになりながら座り込んでいる。
そして机には、コップが置かれている。結露した水分が、コップの肌に浮き出ている。ぽたぽたとその身を現し、重みに耐えることができなくなるとスッと落ちる。
じんわりと机に広まり、沈み込む。
ヴァサーが立ち上がろうとする。しかしアキナはそれを制止させるが如く、ぎゅっと抱き、包む。
すんすんとなる鼻の音。
夜の風が家を揺らす。
「・・・・・助けて、お母さん。」
ヴァーゼは寝言なのか何なのか、そう言葉を洩らし、静かに眠っていくのだった。




