拠り所‐やっつめ
一週間が経とうとしてはいたが、毎日が変わることなく、平凡の繰り返しであった。それでもヴァサーはアスカ達との時間の中で笑顔を増やしていっていた。
「ねぇ、次は何で遊ぶ?」
「ううん、そうだな・・・・」
アスカが頭を悩ませる。あらかた思いつく遊びはやり尽くしていた。
「じゃあ、ちょっと探検でもしてみるか」
そう言うとアスカはイエレナを連れ、ヴァサーと森の中に入っていく。
そんな姿を、家の中から窓を通して見ているものがいた。
アキナ、くぁっとあくびをしながら、洗濯物を畳んでいく。微かな涙を指の腹でこすり取り、再び目の前にある洗濯物に向き合う。
その横では、ヴァーゼもせっせと服を重ねていっている。
アキナはヴァーゼの手元をじっと見ながら、口を動かし始める。
「綺麗すぎる・・・・・・」
「そうでしょぉ。ふふっ慣れたものでしょ?」
ニコッと笑い、八重歯をちらりと見せる。
「ヴァーゼさん、私にコツ教えてくれない?」
「ふっふっふっ、いいわよぉ。」
そう言うと、ヴァーゼはこれまでよりも手の動きを遅くし、アキナの様子を細かく確認しながら作業を進めていく。
少しづつ少しづつ、アキナもそれのできを整えていく。
しかし扉がバン!!と開かれると、そんなゆったりと進む空間に、外の空気が勢いよく舞い込んでくる。
「ただいま!!」
ヴァサーが、扉の前でニコニコと仁王立ちをしながら、頭に乗っかる木の葉を振り落としていく。
きょとんとするアキナの横で、ヴァーゼが立ち上がり、近づいていく。
「ちょっと、もう~こんなに汚して~。」
扉からは、続々とアスカとイエレナも入ってくる。やはり、その頭には緑の葉が引っ付いている。
何してきたのよとアキナはアスカに聞くが、軽やかにはぐらかされる。
「へへっちょっとね。」
頬を膨らませ、上下の唇を突き出す。しかしすぐに、だはっと笑いを吹き出し、アスカとイエレナの頭にのる葉っぱを払い落とす。
葉は落ちる。落ちれば落ちるほど、それは時間が過ぎていくということである。
夜になり、また一つのコップに酒が注がれていく。
コトコトと、コポコポと、それが満たされていく。
なのにいつまでも注がれることはやめられない。
アキナ達は、今日もまた、新鮮味のある野菜たちを嚙み砕き、胃に流していく。口に放り込み、そこで味の濃淡の調節をしていく。
食事が終わり、またヴァーゼが眠りにつくだろうとアキナが、食器に手を伸ばした時、ヴァーゼは立ち上がり、食器をシンクへと運んでいく。
しかしそれは、途中で彼女の手から滑り落ち、パリンと小気味よい音を立てて割れる。
「ああ、やっちゃった。また、やっちゃった。」
ヴァーゼはその場でしゃがみ込み、砂場にいる少女のように、外から内へとそれを一箇所にまとめていく。
ガラガラと擦れる音を立てる欠けて散り散りの食器は、時折降るヴァーゼの涙を誤魔化す。それでも鼻をすする音は、孤独に家の中に広まっていく。水っぽい音ともに、震える吐息と、確かな感情が漏れ出ていく。
ごめん、ごめんと贖罪かのように言葉を吐き出していく。
そんなヴァーゼにかわいい、かわいい息子が口を開く。
「・・・・・お、お母ぁさん・・・・お酒・・・・やめ、たら?」
その言葉に隙間なく、ヴァーゼは怒号を飛ばす。
「はぁ!何よ。私だって・・・・私だってねぇ頑張ってるのよ!もう、なんなの!なんで私がそんなこと言われなきゃいけないわけ!あんたらだってねぇ・・・・・っ・・・・なに!私が悪いって言いたいの!」
ヴァサーは口を紡ぎ、長い時間をかけて唾を飲み込む。
「ぼ、僕は、お母さんを責めてないよ・・・・僕は、その・・・もっとお母さんとも話したかっただけで。でもいつも忙しそうだし、疲れてそうだしなんか、なんか・・・・僕も何が言いたかったのか分かんなくなっちゃった。」
そこからまたヴァサーからは先ほどと同じ提案をする気配がした。そのため、二度目の怒号が響く。そしてそれは次第に、泣声に包まれ、言葉の棘だけはある状態になる。
刺さらない。
同情を呼ぶ。
言葉の刃の本来の切れ味はひっそりと隠れていく。
「ぼ、僕がいるよ?」
小さな声。
ヴァサーの声は母親には届かない。声をあげ泣く母親は一人立ち上がり、寝室へと向かう。布で顔を覆い、さらにその声を荒ぶらせていった。
残された子供と、数人の他人。
ヴァサーは手の小さく震えさせながら俯き、じっとその空気の中で必死に生きようとするのだった。




