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魔術的鍵師物語  作者: mono
第八

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81/119

拠り所‐ふたつめ

 ガサガサと草木は悲鳴をあげる。

 イエレナは迷いなく走り、その力強い足は、日陰でぬかるむ地面を歪ませていく。

 そうしてほんの数分走り、悲鳴の元へと辿り着く。

 小さな小屋、窓からは温かい明かりがこぼれている。そして揉め事でしか聞くことのない音が外に逃げてくる。

 イエレナはゆっくりと近づき、扉を前にする。

 暗闇の中で、靴越しに足裏が濡れる感覚に合う。

 温かくも、どろっとしたねばつく液体。

 

「いやあああああああ!くるなあああああ!」


 再び女性の叫び声がイエレナに届く。イエレナは閉ざされた扉を開くべく、それを蹴る。しかし思いのほか扉には重さがあり、開かない。

 であるため、もう一度、


バキッ!!


 扉は開かれ、温く湿った外気が恐怖に溺れる室内と混じっていく。

 扉の前には一人の男がぐったりとしている。

 そして悲鳴をあげていた正体に思える女性がいる。その女は、何かを庇うように両手を広げながら、部屋の隅追いやられている。女の頬には赤い液体の跡があり、その上から、涙やら脂汗やらが通り過ぎていく。

 女はぎゅっと目を瞑り、顔を退ける。

 なぜか、女には、小さなナイフが振り下ろされていた。しかしそれが怯える女に届くことはなかった。

 イエレナは片手を犠牲にそれをせき止め、突き刺さるナイフを力に任せ、取り上げる。


「は?・・・・・あぁ、なんだ、イエレナか。」


 無から聞こえる舌打ち。

 イエレナがわざわざ片手を犠牲にした理由はそこにある。ナイフは”なにもない”から振り下ろされていたのだ。

 イエレナの視界には怯える女とぐったりとする男しかいなかった。

 イエレナが耳を澄ます。

 するとコツコツと鳴る足音は遠ざかり、静まる。

 プンっと耳元で羽音が鳴る。

 イエレナの過敏な感覚は、信号を伝え、蹴りをそこに放つ。しかし大した感触はなく、風圧が窓ガラスを割るだけであった。


「ひー・・・怖ぁ。」


 苛立ちと余裕の狭間にある声は、扉付近から聞こえてくる。

 イエレナは動くことなく、部屋の隅にいるそれを守る姿勢に移る。


「これじゃぁなぁ・・・・まあいいや、イエレナ、アスカきゅんによろしく言っといてねぇ。あっ、喋れないか。」

 

 軽さのある声が喋り終えると、コンコンと扉をノックする音が広まる。


「へへーい、お邪魔ぁしましたぁ。」


 そう言うと、それは姿を顕わにしながら、外へと歩いていく。

 イエレナは目にする。先ほどまで透明であったそれの正体を目にする。薄気味悪いその顔には、相手をいたぶってやろうとする意地の悪さがこべりついている。

 そして黒髪からは青の瞳を首からは黄金の鍵を、そのふたつを光らせながら、それは闇へと消えていくのだった。

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