拠り所‐ひとつめ
アンダーと別れた後、アスカ達の野宿生活は、絶賛、虫に襲われていた。
「きゃっ!もう・・・・うざすぎ!なんで夜になるとこんなに増えるのよ。」
アキナが、身をよじりながら、血を吸いにくる虫を振り払う。
ちょこまかと動く小さな虫。両手で挟み込もうにも、どうにか逃げられてしまう。
そんな虫とはアキナばかりが闘っている。
すなわちアスカとイエレナはどうってことはなかったのだ。
「モテモテぇ、羨ましい。」
欠伸をするアスカは、両手で胴を支え、両足を伸ばしてながら座っている。
アキナはだらだらと垂れる汗を拭い、袖をまくり、ズボンの裾を持ち上げ、シャツの丈を折りたたみ、ぐっと中腰姿勢をとる。
「もう!存分にかかってきなさい、アンタらが血を吸いに来た時、残るのはアンタらの残骸のみよ。」
血を吸われているはずであるが、アキナの頭にはずいぶんと、そして充分な血が昇っている。
肌は火照り、夏の風はアキナをこしょばくからかっていく。
草木が揺れ、空気はきつく張る。
ピンっとアキナの触角が微細な違和感を察知する。もはや反射とでも言おうか、アキナは左手で思いきり、自分の腹を叩く。
へその顕わな腹部は波打ち、パチンという小気味いい音が夏の夜空に響いていく。
しかしアキナの耳元には再び虫の羽音が届く。きれいだった腹にはぷくりと赤い楕円の腫れができあがるのだった。
「イエレナぁ・・・・・どうにかしてぇ。」
アキナは、赤くなる腹をさすりながら、ぺしぺしょの顔で振り返る。泣いてはいないが、嘆きのある顔に、もうひとつの赤い腫れがある。次にはアスカ達の元へと近づき、すとんと座り込む。
アキナが座ったタイミングで順繰りにイエレナは立ち上がり、真剣に虫の動きを見切ろうとし始める。
「どんだけ刺されてるの?」
「わかんない。笑ってないでアスカもどうにかしてよぉ。」
アスカは首元を指さし、虫刺されをまた教える。
暑さにぼうっとするアキナは顔を片側に傾け、アスカに見えるようにと、片方の首を見せびらかす。
健康的な色白さには、太陽に焼かれた焦げ茶色が混じっている。
「どこ?」
アキナが口を動かし、アスカに聞くと、振動でまた汗が落ちる。
「ああ、えっと、首・・・・だよ。」
「えっ?・・・・・・えぇ、うん。だから・・・どこ?」
アキナとアスカの両方の口は閉じ、なんでか困る。
いまだ、くすぐるような冷たさのある夜の風が吹いている。
「イエレナ、虫はどう?」
アキナは立ちあがり、捲っていた袖やら裾を伸ばし戻す。そしてイエレナのほうにちょこちょこと走っていく。
イエレナは虫から視線を外し、アキナに向かいながら、上目づかいで首を振る。
「そっかぁ。ありがとうだよ。」
結局、虫の始末は果たされず、二人は眠りにつこうとしていった。
その間もイエレナは、毛布にくるまれることはなく、その視線を闇夜に紛れ込ませながら虫の音を追っていた。
そんな寝静まった空間を引き裂くものが現れる。
「きゃあああああああああああああああ!」
女性の悲鳴。遠くで発されたそれは夜の澄んだ空気の中で反響していく。
イエレナは、瞬時に纏いを解き、身軽になって走り出す。
風を切り、草木を蹴る。
そしてもう一度、悲鳴が響く。
「ああああああああ!」
男の声。
この周囲で確かな何かが起こっていた。




