ぼんやりさん‐ふたつめ
トラオムに入っていった三人。
アスカは、自らのポケットから依頼書を取り出し、その中に書かれた地図を見つめる。
「ええと、門を抜けてから、みっつめの橋を渡って、突き当たりを右。んでしばらく歩いて見えるレンガ造りの家が・・・そうらしい。」
そうしてたどり着いた家は、城から最も遠い場所に位置した場所。城壁に沿う場所に建てられた立派な家であった。
「すみません。鍵師です。依頼を受けた鍵師のものです。」
玄関先にある屋根から垂らされた鐘を鳴らしながら尋ねる。
カランカラン・・・カランカラン・・・。
二度ほど鳴らしても、呼び鈴への応答はなかった。
「もう一回鳴らしてみましょ。」
諦めはしなかったアキナがもう一度、鐘を鳴らそうとした時、二回の窓からカタっという音がする。
そちらの方を見ると、まだまだ未成熟の子供、四、五歳といったところの子供が覗くようにこちらを凝視していた。
しかしアスカと目が合った瞬間、三人に存在がばれた瞬間に身を隠してしまった。
そしてよほどの勢いで家の中を駆けたのかどたどたという音が外にまで聞こえてくる。
さらにその音が止まったかと思うと、先ほどの足音よりも明らかに大きく鈍い音が倍ほどでドカドカと響き始める。
アスカもアキナもキョトンとしていたが、ほんのしばらくして三人が前にしていた緑色の扉が開かれる。
「こ、こんにちは。すみません、出るのが遅くなってしまって。いまちょうど実験の最中だったもので。」
そういって申し訳なさそうに頭を掻きながら出てきたのは、白衣姿で穏やかそうな天パ男と、見るからに秀才さのある目のきりっとした女であった。
「いえ全然。こちらこそ立て込んでいるところにお尋ねしてしまって、申し訳ないです。では依頼について話を進めていきましょうか。」
そういわれたその夫妻は、三人を家に招き入れ、慌てて部屋中に散乱する資料や皿やらを片付け始めた。
「すみません。汚くって、ほんと。ちょっと少々お待ちください。」
「カルラ、そこの使ってないコップでお茶でも出しといて。こっちの資料の片付けは僕がやるから。」
「わかったわ。でも今あなたが手に持ってる実験材料は、あんまり雑に扱わない方がいいと思うわ。死ぬから。」
「はい・・・。」
しゅんとなる夫のほうがゆっくりと手にある紫色の球体を床に置き、せっせと動き始める。
カルラと呼ばれた妻は、テキパキと白のコップを液体で満たしていく。
「コーヒーです。良ければどうぞ。あとミルクとかあるので遠慮せず。」
「あ、どうも。」
「いただきます。」
アキナが出されたコーヒーに口をつけようとした時、カルラの背後で何かがなだれ落ちた音がする。
カルラは額に手を当て、しばらくフリーズする。
「オルモ、だいじょぶ?」
オルモと呼ばれた男、天パの夫。山となる物の残骸から片方の腕を出し、グッドのハンドサインをする。
「私、手伝ってくるよ。死なない程度に。」
アキナがコーヒーをすべて流し込み、荷物の山々に恐る恐る近づき、オルモを手伝い始めた。
恥ずかしそうに目を伏せるカルラが気持ちを切り替えるように、ふぅと細い息を吐く。
「改めまして本日はよろしくお願いします。では私についてきてもらえませんか。」
カルラは立ち上がり、アスカとイエレナを一つの部屋の前に連れていく。
二階の角部屋。扉にはカルモと何かで彫られ、そこに刻まれている。
「カルモ。入るわよ。」
カルラが声をかけたが、部屋からは返事はなかった。
扉がすんなりと開かれる。
「息子です。息子のカルモです。」
綺麗に整えられた部屋。窓から入り込む光は、部屋に浮かぶ小さな小さな埃をもきらめやかに照らしている。
そんな部屋に一人で座っていカルモという少年。
その姿は、稀に見る美少年であったが、その肌は見覚えのある白さで成り立っている。そして何より彼の瞳が見つめるのは、目の前の虚空であった。
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