分かれ道‐ここのつめ
アンダーのプーベテートが解消された次の日、アスカ達は、アンダーからの相談を受けていた。
「曲はなんでもいいらしいんだけど、なに歌えばいいと思う?」
アスカとアキナのどちらも頭を悩ませる。
腕を組み、首を傾ける。傾けた髪が街灯に照らされ、火照っている。
イエレナも首を傾けるが、帽子で頭を包んでいるせいなのか、それとも地下にいるため、風がないのか、イエレナの髪は揺れることはなかった。
それでも、のほほんとした空気感は変わろうとはしなかった。
アスカ達もアンダーの歌声をいまだ聞いていない。
「アンダーは、何か好きな歌ないの?」
アキナが問うとアンダーが何かを思い出す。
「あっ!・・・・ああぁぁ。歌詞が分かんないや。それにメロディーも大して覚えてない。」
アスカがノートの?と聞くとさらに続ける。
「うん。流石に歌えないけど・・・・また聞きたいなぁ。」
コクジン。
アスカも一度それを耳に、目にしている。普段は目にしない見た目に、普段は聞くことがないリズム感、嫌でも覚えている。
「多分・・・・・・俺も前聞いたことあるから・・・・・教えれる、かも。」
記憶は紐づけられて残る。アスカの嫌な景色は強烈な愉快さの中にあった。
記憶を紐解くように、頭に残るリズムを語っていく。
しばらくして、音の理解はアンダーに移る。全員で家に戻り、ノートをもとに歌詞を割り当てていく。
そしてついに約束を果たす時になる。それは、アンダーが父の背中を見ていた作業部屋で行われた。
アスカ達を含む四人でアンダーを見守る。
ここにピアノはない。それでもアンダーの口からはメロディーが生み出されていく。丁寧に丁寧に青く、強く、大きくもばらばらに。
アインアンデラの瞳は真剣だ。なににも揺らぐことのない、仕事に向かう時と同様の目である。じっくりと瞼を上げ下げし、ようやく喋り始める。
「そりゃそうだな。息子ながら俺の血を引いてるなと思う。お世辞にも拍手は遅れねぇ。どんと・・うぉりーだか何だか、歌詞も俺には良く分からねえしな。」
アンダーはこの語り口を知っているのかノートに手を伸ばす。
「雑だな。何もかも雑だ。若さを言い訳にするな。誰だって大人と同等になれる。体格のことを言ってるわけじゃねえ。スキルだ。ただ・・・・・・歌について俺がいえることはねぇ。技術だなんだも俺は知らねぇし。ただ、お前の歌には、生きがいってやつがなかったぜ。お前の死にものぐらいってやつがな。そして楽しさもな。」
アンダーの筆は滑るように進んでいく。それはアインアンデラの、父の言葉が終わってもなお終わろうとはしなかった。
するとアインアンデラは、アスカ達に詫びるように話し始める。
「あいつ昔からああなんだ。集中するとそれを書き留めないと仕方がねえ。俺の声が聞こえてるのか聞こえてえのか、指摘したことのメモはあるのに、声をかけてもそれを止めやしねぇ。」
アインアンデラの笑みには得意げが混じっている。
「あいつ、きっとうまくなるさ。家具に対してもそうだった。ちいせぇ頃はてんでだったが、そりゃもう、磨きのかかりかたといったら、言葉になんてできやしねない。あいつは知ってるんだよ。努力の仕方を。」
三つの指が伸びるごとに、その仕方というものが示される。
”続けること・諦めないこと・愛すること”
みっつの教えが終わると、アインアンデラは指をおり、握った拳をゆっくりとほどいていった。
アスカはひょいと立ち上がり、ノートを覗きにいく。確かにそこには父の言葉のメモがある。最初に伝えられて叱責、三つの教え。それと、涙の粒がぼたぼたと。
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