分かれ道‐ななつめ
アスカが目を覚ます。
心の世界を開いた広場に一人増えている。アスカ達三人とアンダー親子、そこに加えて、トラディツィオーンに落ちた時に助けてくれたおじさんがいた。
「なにしてんだ?」
だらしなく欠伸をしながら、はだける腹をぼりぼりと毟っている。力ないヘソは微かに顔をしかめている。
アインアンデラが説明に行く、とそんなことしている間に、アンダーからヌーアインシャテンが生まれていく。
結露が破裂する音ともに、霜がおり、瞬間的に氷の世界が平がる。しかしそれはすべて無に還り、冷徹な影として、トンボの羽の生えた美しき女の形へと変貌していく。
アスカは、アンダーの心の世界を閉めるために魔法の書をめくりながら、鍵のもとに走っていく。
しかし”フルミネ”、とアスカは思わず魔法を唱える。
電撃。
しかし本来の距離ではなく、アスカの手元付近でそれは炸裂する。それすなわちアンダーのヌーアインシャテンは既にアスカへと襲い掛かっていたのだ。
その羽は、斬烈に富み、アスカの頬を掠め、えぐるような傷を与えている。
網のような雷電のフルミネを唱えなければ、感電することのなかったヌーアインシャテンの羽は、勢いそのままアスカの表情を歪めていたに違いなかった。
アスカは垂れる血液に触れることなくヌーアインシャテンと距離を取り、次の魔法を構える。
”フルミネ”
魔法の書が輝き、黄金ともに放電は扇の如く広がる。
しかし華麗にそれは避けられる。
ヌーアインシャテンは鋭さのあった羽をしなやかにはためかせる。舞うように高度をあげると、もう一度標準をアスカに重ねる。
高度が速度を加速させる。
アスカに目掛けて急降下するヌーアインシャテン。超越する速度に対して、アスカは走り、避けようとする。横に飛び込み、転がりながら通りすぎたヌーアインシャテンを捉える。
アスカは再び魔法を唱えるが、それの効果は発揮されない。
当たらなければなんら意味がない。
しかしここで耳元で囁かれる。
「おまえ、近距離の魔法はあるか?」
アインアンデラからの説明を終えたくたびれたおじさんがアスカに尋ねる。
アスカは、頬の汗を拭いながら頷く。
するとそのおじさんは言う。
「加速したけりゃ、撃つように面を蹴れ。」
そう伝えると、魔法を唱える。そして脇に抱えていた書物から光が漏れでていく。
”シュプリンゲン”
アスカの体が、魔法に包まれ、黄金を纏う。そしてそのおじさんに体を持ち上げられた、かと思うとアスカの体を地面に叩きつけられる。
地面を歪め、凹ませると、弾力性というべきか、アスカの体は思いきり宙に跳ね上がる。それはヌーアインシャテンよりも遥か高くに。
アスカが纏う魔法の光は、地下全体を照らし、刹那、月の如く宙に留まる。
アスカは足を上向きに向け、重力を蹴り上げ、ヌーアインシャテンに向かって突き進んでいく。
もう一度空を蹴る。
蹴る、蹴る蹴る。
速度が増す。
風に叩かれ、魔法の書は捲られていく。バタバタと音を立てるそこにアスカは指を差し込み、ひとつの魔法をなぞる。
”トゥオーノ”
アスカの手で雷が鳴り響き、その手はヌーアインシャテンの女顔を掴む。
鳴り響く電撃は、風船を破裂させるように甲高く嗚叫びをあげる。
手に纏う雷鳴は、ヌーアインシャテンを消し飛ばし、粒としての影へと変貌させたのだった。
アスカは勢いのまま、地面へと落ちていく。いまだ魔法による纏いがあったため、大した不安を持たずそれに身を任せていた。
「ああ、気持ちがいいや。」
地下に眠る冷たい空気が体を冷やし、汗を乾かす。爽快な気分に身をまかせ、頭を下に落ちていく。
落ちて、落ちて、落ちていく。
そうして地面に叩かれようとしたとき、その地面に叩き撃たれる寸前で、アスカは一人の腕で包み込まれる。
「・・・・・イエレナか。」
アキナを守るために姿を晒していたイエレナの頭を撫でる。そんなイエレナの両腕は兄を大事に抱えている。
「ありがとう。」
ヌーアインシャテンは、多数の粒となり、降り注ぐ。黒い雨が止むと、アンダーが足をつけている地に一粒を残して、じんわりと染み込んでいった。
アンダーの掌。そこには黒い影の粒が残っている。
潰さないようにアンダーはやさしく五本の指を折り曲げ、それを握る。
「オヤジ・・・・・話したいことがある。」
父子の間には互いの強い視線が交差する。
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