分かれ道‐むっつめ
地下空間にあるトラディツィオーン。
人目のつかない広場で、アンダーの心の世界が開かれる。
”アーフシュリーセント”
アスカは、魔法を唱えるとともに、魔法の鍵をアンダーに目掛けて近づけていく。
きらきらと光輝く黄金は、地下空間で万華鏡のように反響していく。
アスカは、鍵を差し込み、それを捻る。
カチっ!
その音ともに、アンダーの世界は開かれる。光りが溢れ、地下に一つの星が生まれる。その存在を主張するかのように煌めき、地に落ちる。
それでもひかり続ける。
その眩しさに、周囲の人間、アスカ、アキナ、イエレナ、そしてアンダーとアインアンデラは眼を眩ます。
そして現実の世界で眩んだ目を開いたのは、アスカとアンダーを覗く三人。
アスカは眼を開くことなくゆっくりと意識を失っていった。
「だっ!」
アスカが目を覚ます。そして勢いよく起き上がり、周囲を確認する。
アスカの見る世界は現実の世界と変わっていない。しかし違う点がないというわけではない。アスカは今、ひとりだった。
アンダーがいない。
アスカは歩き、そして辿り着く。
数日前に見たあの家、アンダーの手がかかったあの家にである。
アンダーはそこにいたのだった。
「アンダー。」
家の中に入るとアスカの瞳にアンダーが入る。
黙々とひとつのノートにペンを走らせている。
しかしアスカが声をかけたことでそれが止まり、アンダーはノートを閉じる。表情は固く、怯えているようにも見える。
「お、おれをはやくなおしてはくれない?こんなところで、おちおちやってる場合じゃない。」
「おちおち?」
「おれには夢がある。」
アスカは、自信なさげな表情のアンダーに声をかけようと言葉を作ったが、それは喉に詰まることになる。
「おれ、歌手になりたいんだ。」
はっ!?と思わず、驚嘆が漏れる。まったくの予想外に汗が落ちる。何の温度もないそれは、ただただポチャリと地で跳ねる。
そして直線の彫りにそって流れていく。
アスカは、さらに話を誘う。
「この前おれは、歌手にもなりたいと思ってしまった。地上から人が落ちてきたんだ。その人は、肌も黒いし、言語も曖昧。それでも、おれ、彼に影響されちゃった。彼の歌声に。」
アスカにも心当たりがある。黒い肌とおぼつかない言語、コクジンだ。アスカは腕を組み、適当に座り、上向きに悩む。
アインアンデラ、アンダーの父は、彼が賢いと言っていた。きっと家を継ぐと言っていた。それが今、彼の口からは一言も出てきていない。
「お父さんには言ったことあるの?」
アスカが問うと、いやっとアンダーが首を振る。
「言えないよ。怖い、否定されるのが。だっておれはあの人の子供で、あの人はおれの父親だもん。その関係は切れないから。なにかを言われたらそれには断れない。親だもん。それに歌の才能があるかも分かんないし。もう何も分かんない。怖い・・・・怖い・・・・挑戦したいのに、膠着している今がとても・・・・怖い。」
アンダーは俯く。
髪は垂れ、彼の視界を遮る。
そのせいか彼には見えていなかった。いつのまにか山となる、ぼろぼろのノートが彼には見えていなかった。
「家具・・・その・・・・・家業は何年やってるの?」
「わかんない。気づいたら。」
「気づいたらか。アンダーはすごいな。俺にはそんなに長くやってきたことなんてないよ。ていうかアンダーはいくつ?」
「16。・・・・おれ16年近くも、やってきたのかな?」
アンガーを讃えるためか、アスカは積み重なるノートを指さす。
「おれは・・・・・・」
アンダーの答え。
予想できるのは二つである。家業か歌か。
「俺は知ってる・・・・努力の仕方を知っている。だから!・・・・歌手にだって・・・・なれる!」
アンダーは顔をあげる。そこにあるノートを撫でながら、前を向く。
世界は崩れ、場面は実態を持ち始めていく。
その最後、アンダーはアスカに一言告げる。
「おれ、劇的って好きなんですよ。」と。
そうしてアスカの意識はふっとなくなるのだった。
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