分かれ道‐よっつめ
トラディツィオーンに辿り着き、治療に関しての話が示し合わされた次の日、アスカは再びアンダーの住む家に入っていった。
「今日は一人か。まぁ、大人しくしてろよ。」
「ええ、そうさせてもらいます。」
陽の光の届かない地中らしい冷たさが、アスカの言葉には埋め込まれていた。
「なんだ・・・・あからさまだな。嫌いか俺が。」
アスカの表情が固まる。
「まぁ、少し苦手ですね。」
「そうかよ。理由は知らねえが、まぁなんだ、ほんの一週間だ。互いに我慢ってところだな。」
「ええ。」
アインアンデラは今日も茶をすすり、また作業部屋に入り浸っていく。
カンカンという音ともに、時間が過ぎていく。当然なのか当たり前なのか、そこにはアンダーもいる。さらにはそこにある強い瞳は純な炎のように、静かに沸々としている。
二時間、三時間、アスカが朝方に訪問してから止まることなく作業は続いていく。
そうして昼になる。
「おい、あんたらも食ってけ。」
このころには、アキナとイエレナもアンダーの家に邪魔していた。
眠ったことで、昨日の怖いという言葉を忘れたのか、アインアンデラの用意した食事に目を輝かせながら、笑顔を振りまく。
「ありがとうございます。いただいちゃいます。」
反対に、アスカとアンダーの父、アインアンデラはただ黙々と咀嚼のみをしていく。噛んで噛んで噛み続けるが、それぞれの頭の中は、ひとつのことで満腹であった。
アスカはアンダーのことを想い、アインアンデラは己が仕事のついてばかりを反芻していた。
食器の音ばかりが気になる空間の中で、パン!と手を合わせるアキナが、ごちそうさまでしたとその声を響かせる。
「あいよ。」
アインアンデラはそっけなく答えると、すぐに作業部屋へと向かっていった。
それに続いて口を開き閉めるを繰り返しながらアンダーも歩いていく。
「またか。」とアスカはうなじを掻く。何かを得ようとする思惑は上手くことが進まない。
ただただ、その景色を見るだけで終わることになる。
しかし、アスカは一つのノートを見つける。部屋の隅に積み重ねられたそこにあった比較的綺麗さのあるノート。
すまんっと心の中で謝辞を唱えながら、そのノートを開く。
そこには殴り書きの文字列がある。しかしただの文字列であり、読めはするが、その意味は理解できるのもではなかった。
「どんとうぉーりー・・・・ばうとしんぐ?」
アスカはほかのノートにも目を通していく。数十、数百のノート。そこには先ほどの物とは異なり、家具についてのデザインやら、技術についてのメモが残されている。
それはおびただしいほどの量、密度である。
軽々しくアスカはそれを手に取った。しかし目を通した今では、指先で持つだけではあまりにも重く、それはのしかかった。
アスカはついにそれを閉じると、後ろから覗き込んでいたアキナに目を向ける。
その間も、カンっカンっとアインアンデラは作業部屋から音を鳴り響かせている。
何度も何度も、打ち、鍛え、極める。
そうして一日が終わっていった。
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