分かれ道‐みっつめ
アスカの若々しい声が地中の巨大な空間で響く。
「ごめんください。」
ノックされた扉が静かに開かれる。
アスカは、少しばかり視線を下げる。そこには丸みのある整えられた髪を持つ少年がいる。
少年の肌は、周囲の暗さにとっては異物な白さであり、パクパクと用もなく口は動いている。
しかしその口が、ずんぐりと閉じられる。
だれよりも大きな手は少年のつむじから目元にかけて包み込みながらも圧力を与えていく。
「だらしなく口を開いてんじゃねぇ。シャキッとしろシャキッとぉ。」
少年に続いて、出てきたのは、左右の目の大きさの違う男。肌は土のように茶に染まり、鼻からは頬を支えるように一本の皺が深く刻まれている。
「おう、鍵師のやつか?まぁあがれ。」
男は坊主頭を掻きむしりながら、三人に背を向ける。その背中は、多少の曲がりがあり、平たくも大きい。
全員が家に入ったところで、男は話を続ける。
「んで、てめえから見て、俺の息子はどうみえてんだ?治せんのか?」
不格好な男は、茶をすすりながら言う。
「そう・・・ですね。おそらくプーベテートに違いはないと思います。」
「そうか。息子には家業を継いでもらわねえと困るからな。確かに頼むよ。」
アスカは、分かりましたと答えると、頭の中で自分の機嫌を問う。
「そうですね。一週間、一週間後に治療をしたいと思います。それまで、息子さんの様子を見ててもかまわないですかね。」
「構わねえが・・・・・いや問題ねぇ。アンダーが戻るなら、なんだっていいぜ。」
ずるずると音をたてていた茶を飲み終えると、アンダーの父は、立ち上がり、どこかに行ってしまう。
アキナは、ここまで一言も喋らず、机上の依頼書を眺めていた。そこにはアンダーの父親、つまりは先ほどの男の名前と職が記されている。
ようやくアキナが口を開く。
「なんか・・・・怖かった。圧?な感じ。」
「そう?」
「なんか、なに考えてるのか分かんない感じ。」
と、会話をしていると、カンカンとした金属音ともとれる甲高い音が聞こえてくる。
それに招かれるように、アンダーが父親のいる部屋へと進んでいく。
するりと歩くアンダーは、そよぐ風を作り、依頼の書を机から落とす。
アスカはそれを拾うとともに、もう一度ざっと目を通す。
”アインアンデラ・家具職人”
アスカもアンダーの後を追う。
小さな灯りの中には、燃え盛る炎があるわけではない。しかしそこには確かな熱が埋め込まれていた。
丸みこまれたアインアンデラの背中から、ふとぶととした彼の腕が、何度も振り下ろされていく。
アスカは、その父と子がいる空間の手前で立ち止まる。
アンダーの背中は、いまだ丸みを帯びていない。凛とした背筋は、瞳にまでも影響を与えている。その真剣なまなざし、死人のような肌の色のアンダーにとって唯一無二の輝きを放っていた。
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