妖精‐じゅういっこめ
しーっと唇に指を立てるエルフ。
その顔から笑顔を消しはしない。
何もっ、とイエレナとの対話を拒んだアスカだったが、その興味を失くすことはできない。
アスカも身を乗り出しながら、その時を待つ。
「・・・・・ええっと・・・・うん。うん。・・・・うん。わかった。」
アスカは口を開いたまま。代わりになってか、アキナが聞く。
「イエレナはなんて?」
イエレナの言葉が吐かれる。
「気にしないでだって。ごめんって言わないでだって。それと・・・手を出してくれだって。」
アスカは言われるがまま、その手をイエレナに預ける。
イエレナはアスカの手首を掴むと心臓の音を聞かせるように胸に手を触れさせる。
じんじんと響く鼓動は、当然アスカの手を震わせる。
エルフは言葉を続ける。
「生きてるよ。僕は生きてる。だからいつまでも待つよ。」
アスカは手に残る痛みを思い出す。
「プーベテートが治せない。肌は死人みたいで。喋れない。眠れない。」
アスカはその言葉を二度三度と繰り返す。それを飲み込めるようになるまで、噛んで噛んで噛み続ける。
「俺も見るよ、現実を。現状イエレナは治らないし、どうしようもない。ただ・・・・生きてる。イエレナは確かにそこにいる。」
アスカの瞳の中にイエレナのそれが入りきる。
どちらも青く、濃淡によってその瞳は渦巻いても見える。
それでも凛としたその目は、どちらも目の前を捉えている。
アスカは立ち上がり、エルフに感謝を述べると、ぐんと体を伸ばす。はぁっと吐く息は、涼しげな空気に溶けていくのだった。
風が過ぎていく。
「?」
アキナがきょとんとする。
エルフは役目を終えた耳を擦りながら、労わりながら、アキナの懐に体を委ねる。
「えへへっ」
甘えた声はアキナの耳に滑らかに入る。
思わず愛でたくなる衝動を抑えていると、一人の少年が視界に入る。
ひとつ手招きをし、ザーゲンを呼び寄せる。
「何か書いてるの?」
「・・・・・・ええ。まあ。」
「?・・・・・・えっとなにを書い・・・・」
ザーゲンは姿勢を正すとともに、ほっぺに若干の引っ掛かりがある中でも頬を掻く。
「ああ、その・・・・エルフのことを書いてて、エルフっていう存在を皆に知ってほしいので。」
アキナは親指を立て、いいじゃん!の意思を表す。
そんなアキナはザーゲンとは目が合わなかった。その視線の先は、少し下にある。
アキナは考える。
顔よりも下にある球体。
心当たりがある。
そう、視線の先にあるのエルフの頭だ。
「ねぇエルフ?俺と一緒に旅に出ないか?」
エルフは、アキナの胸に顔をうずめている。しかし耳は剥き出しになっている。
「旅?・・・・・だ、誰にも・・・・怒られない?」
「怒らないよ。誰も怒らないよ。」
ザーゲンは故郷の方向に視線を送っている。
「旅に出たら、海とかって・・・・見れる?」
「うん、見れる。ふたりで見に行こう!」
エルフはこれまでとは違う笑顔をつくり、ザーゲンに飛び込む。
思いきりジャンプしたエルフは、大きな大きなザーゲンに抱えられる。
月光の中で、緑と金の混じるエルフの髪はなによりもキラキラと輝いていたのだった。
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