妖精‐じゅっこめ
ひとりの少年を見送ってからしばらくたって、アスカは再びザーゲンの顔を見る。
「荷物・・・・・すごいな。」
アスカが見まわすザーゲンには、大きな荷物がおぶさっている。
ゆったりとした服に着替えてきたザーゲンのその顔は飄々としている。そして体と服には十分な余白がある。
「まぁ旅に出ようと思ってるんで。」
「旅?」と首を傾げながら、歩みをアキナ達のところへと進めていくとそれにつられてザーゲンも歩き始める。
「本当はエルフを村に戻せるように何とかしたい。けど・・・・・俺にはどうすることもできない。力が無い。だからというか、自分は本が好きだから、本を書いて、エルフが普通に暮らせるように・・・・・エルフの存在を世界に広めて、エルフだって普通なんだって教えたい。それで、それを叶えるのと一緒にエルフの傍にも入れたらなって。だから俺も村を出て、エルフと一緒に、って感じです。」
「親はなんて?」
ザーゲンは答えなかった。
事実、ザーゲンは言い切る形でこの決断をした。あの母親もザーゲンを何度も止めた。しかし最後には、ザーゲンの切れのある言葉でその手を引いたのだった。
「・・・・・いままでありがとうって・・・・・ちゃんと言ってきましたよ。」
アスカはそれに対して何も言わなかった。何かを言えば、それは叱責になると直感していたからだ。
しばらく歩くと
「あれ、そうじゃない?」
すっかり夜になったこの地に、ぼんやりとした火の明かりが見えてくる。
草むらを掻き分け、アスカとザーゲンが踏み入る。
「なにしてんの?」
アスカが不思議がるその光景とは、アキナがイエレナの頬を横に引っ張ているそんな様子であった。
「実は、・・・・・ううん見てもらった方が早いわ。エルフちゃんもう一回頼める?」
そう言われたエルフは、ぱっと笑顔になり、任せてっと張り切る。
エルフはイエレナの胸のあたりに耳を当て、しんと目を瞑る。
「ふむふむ・・・・・・なるっほど。ァ、アスカお兄ちゃんおかえりっ、だって。」
きょとんとするアスカと手にペンを持ち始めるザーゲン。
「エルフちゃんはね・・・・なんと心の声を聞くことができるのよ。ちなみにこれまでの治療のことを聞けてたから、本当かどうかは、もうお墨付きよ。」
自信ありげにアキナが言う。腰に手を当て胸を張るとエルフもそれを真似る。
「付きよ!」
「じゃぁ、なんでアキナはイエレナの頬をつねってたんだ?」
アキナは、ごにょごにょと狼狽えながらアスカの唇を見る。
「なんもないよ。そっ、それよりもアスカは何か聞きたいことないの?」
アスカはエルフを見る。
そしてエルフはアキナの手を握っている。
沈黙のアスカ。
痛みの引いた自分の手に意識を向ける。
「俺は・・・・なにも・・・。」
「いいの?イエレナ君、なにか言ってるよ?」
エルフは再びイエレナに近づき、耳澄ますのだった。
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