妖精‐ここのつめ
イエレナ、アキナ、エルフの三人を残して歩いていくアスカとザーゲン。そこにある空気は、周囲の空気の新鮮さを際立たせる。
アスカの口は滞りなく動いている。
ザーゲンの口からは乾いた笑いが出る。
「あの・・・・・なんか無理に盛り上げようとしなくても・・・・」
アスカは動じない。
「俺は普段からこんなんだよ。だから無理なんかしてなぁい。」
けらけらと笑っている。
「あの・・・・」と言葉に滑らかさを失わせたザーゲンは、頬を触る。
「手ぇ・・・・痛くなかったですか?」
「ぜんぜん。」
迷いなく答える。
「俺は痛いです。でもこの痛さがあるうちは、現実を見れる気がする。なにかを割り切れる気がする。だからありがとうございます。」
「いいえぇ」
アスカの足はぶらぶらと体を運んでいく。
「いやぁにしても、緑がたくさんだなぁ、ここら辺は。ほんとなんか夏って感じ。いまは夕日に包まれてるけど。」
故郷をほめられたザーゲンは照れるように笑い、後頭部に手を添える。
そしてまさに空元気だなと俯瞰した感覚にあるアスカはそれでも言葉を続ける。
「ここら辺って雪が良い感じなんだっけ?全然想像できないけどねぇ。いつかまた来るよ。」
「雪・・・・・・・・そんなの大人が言ってるだけですよ。誰かが言い始めたから、みんながそう言ってるだけ。いたって普通のと変わんないっすよ。むしろ俺は今の季節の緑の景色のが好きっすけどね。」
淡々としている声の中に、微かに周囲の新鮮な風が紛れ込む。夕日の中にある緑で黄色の不思議な風、それが吹いている。
「アスカさん・・・・そろそろ着きますよ。アスカさんも俺の雄姿、見ます?」
アスカは雄姿という言葉にピンとはこない。だが言葉を吐く。
「俺はいいよ。俺は。」
そうしてアスカの歩みは止まり、ザーゲンだけが1人村へと進んでいく。しかしザーゲンが村の入り口で振り返る。
「そこで待っててください。エルフのこと迎えに行くんで。」
ぽつんと残される。
ザーゲンは走っている。夕日に向かうその背中は、アスカよりは大きい。しかし風に揺られた服から見える肌には、筋肉っぽさはない。
アスカは、息を吐くでも吸うでもなくそこらの岩に座る。
季節の変わり目の風。のんびりとした暖かさに、張りの詰めた刺激が加わっている。
額には汗がある。
アスカは自分の手を見る。
筋肉があるわけではない。しかし確かな成熟した骨ばった手である。右手の掌は今頃赤みが出てきている。
アスカが自分の頬を叩く。
「痛い。」
ぽつりと吐かれる感情。
右手を交差させ、頬に触れる。そうして重なるそこは、時が進めば進むほど、じんじんと脈打っていくのだった。
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