妖精‐やっつめ
アスカが瞳を開く。
ザーゲンの心の世界からアスカの意識が戻ってくる。
ザーゲンも目を覚まし、違和感からか自分の手に視線を送る。
すると、にゅるりと這い出るように、ヌーアインシャテンがザーゲンの影から生み出される。
羽の生えたようなそれは、徐々に形が定まっていく。
それはまるで花の蜜を吸う蝶のようであった。陰でありながらもその黒は彩度があり、濃淡によっては透かすように周囲の世界を体内に取り込んでいるようにも見える。
ザーゲンと同じほどの体長があるヌーアインシャテンは、はたはたと羽ばたき始め、宙を舞う。周囲を漂うだけで、何かを襲うことも、ザーゲンのもとに戻ろうともしなかった。
その様子を見ていたアスカは、魔法の書を開き、そこらで転がっている魔法の鍵を拾う。
そして唱える。
”フェアシュリーセン”
そうすると魔法の鍵は、手元を離れ、浮かび上がる。ヌーアインシャテンのつくる陰の軌跡を辿るように、魔法の鍵がザーゲンへと進む。そうして魔法の鍵は少しばかりに黄金を醸し出しながら、ザーゲンの鍵穴にはまる。
新たな魔法。
魔法の書に刻まれた新たな筆跡。
アスカはそれをなぞりおえると、片方の手を右回りに捻る。
カチャッという金属音とともに、上空のヌーアインシャテンが霧散する。
キラキラと降り注ぐように落ちるザーゲンの影は静かにあるべきもとへと帰っていった。
その目場ぐるしく起こる景色の理解を諦めたザーゲンがアスカへと近づく。
「約束、守ってくださいよ。」
アスカの顔には、心の世界での笑顔はない。しかしやむなくその手を振る。
軽快な音を立てる。
「・・・・・あんまり痛くないです。でも、ありがとうございます。」
ザーゲンは赤くなる頬を自らの手で被せる。
「戻りますか?母さんも心配してるでしょうから。」
そうだねとアスカは、アキナを見る。
「ザーゲンのこと送ってくるから・・・・アキナはイエレナとエルフとで待ってて。」
そういうとアスカとザーゲンの二人は、日の落ちる方向へと帰っていった。
残された三人。
エルフはしょぼしょぼの目を擦っている。
「眠い?」
黙ったままエルフはこくりと頷く。しかし急にその目は大きく開かれる。
周囲の音を拾うため、小さな手を尖りのある耳にあてる。
困惑するアキナ。
エルフは、音のする方に動いていく。次第にその耳は、イエレナの胸のあたりに引っ付く。
「あー笑ってる。喜んでる。良かったよね、ザーゲンが戻って。」
エルフの突然の言葉をアキナは理解できなかった。しかしその胸の内に昂るかすかな期待と憶測を抱くのだった。
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