妖精‐ななつめ
アスカは、はっと目を覚ますと、目の前に広がる世界が真っ白な箱に収められたようなものになる。アスカの手はいまだ鍵を握っていたままの形で残っていたが、そこに鍵はない。
空間を埋めるように拳を握る。
鍵は無事使えた。だから今この世界にいる。
他人の精神世界。
アスカに体には涙が残っていない。ため息をつくとアスカを浮かび上がらせていたものが無くなり、自然と尻と地がくっつく。
「うわっ!」
思わずの声。
アスカの体が通り抜けながら一人の人物に重なる。
上を向くと、顎先と鼻先が点と点でつながった線上に見える。
「ザーゲン?」
少年が立ったまま下を向き、はいっとガラガラだが落ち着きのある声で答える。調律の合っていないその声には、時々幼さが見え隠れする。
「思ってたんだけどさ、ザーゲン・・・・結構でかいよね。」
アスカはひょいと立つと、手を水平に保ちながらザーゲンの眉を優しく叩くように動かす。そしてその手で、アスカは自分のつむじを掠る。
「いや・・・そんなことはないですけど・・・・・」
「あ、そう?・・・・・うーん、俺が小さいのか?・・・・・・」
ザーゲンが短髪の頭を掻く。
からからと笑うアスカが手を一度、パンと合わせる。
「そうだ。聞きたかったんだけど、エルフ・・・・・はさ、なんでああいう扱いなんだ?」
ザーゲンは、両の手を体の脇で垂らす。しかし力を入れているのかその腕は真に真っすぐだ。
「村がおかしいなんて言ったら変かもしれないですけど、誰が言ったかなんて知らないし、どうでもいいし、エルフは徐々に、徐々に嫌われていって、恐れられて、それである時エルフを村から追い出すことに決まって。本当に嫌になる・・・・・心の底から嫌。」
ザーゲンはしゃがむ。
触れ合うことのできない二人はいまだ重なっている。
ケンタウロスってこんな感じなのかなと言いながらもアスカは耳を傾ける。
「適当に聞いててください。」とザーゲンが口を動かし始める。
「耳が変だとか目が変だとか・・・・頭が悪いとか、みんな言いたい放題。・・・・エルフはすごいんです?とにかく耳がいい。何でも聞くことができるし、あの耳のおかげで迷子の俺を助けてくれたこともあるし。多分エルフには、普通以上のことも聞こえてる。だからみんな怖がって、村から追放しようとしてるんだ。」
ザーゲンの悲しげに笑うその顔には隈が目立つ。
「いったいなんでそんなに嫌うんだ。なんで平然と人を貶せる。信じられない。もし平然とルールに収まる悪意を妥協するのが大人なら、俺は大人になんかなりたくない。子供のままでいい。子供でありたい。現実なんか見たくない。なんで皆、もっと・・・・・。」
「ならなくていいよ、そんな人間には。」
「ならなくていい?」
「うん。そんな人間なんて気にしなくていい。」
冷たささえあるその言葉とともにアスカは問う。エルフの良い所をもっと教えてくれないかと問う。
「・・・・・・・そう、だなぁ。」
ザーゲンの震える声はやはり枯れたような潰れた声である。
「エルフは・・・とっても明るい・・・・・・」
「・・・・そうだな。俺もそう思うよ。」
アスカは笑顔で返す。
アスカの耳にザーゲンの漏れた声が届く。会いたいという言葉は繊細でありながらも、はっきりとしたものであった。
「あの・・・・・これはどうやったら・・・・現実にもどるんですか?」
「うーん。現実を見たら、受け入れたら?とかかなぁ。」
からりと笑うその表情で、アスカは答える。
「なるほど、じゃあ、というか・・・・・なんていうか、向こうに戻ったら、いっかい頬をぶってくださいよ。」
アスカの視界がそれを考える前に光に包まれる。ぎゅっと瞑ったアスカの目だったが、それでもザーゲンの光は瞼越しに受け入れるしかなかった。
読んでいただきありがとうございます。
感想お待ちしています。
次話もお楽しみください。




