妖精‐むっつめ
一番にアキナが呼吸を切らすと、村から離れるための走りが止まる。
「ちょっと・・・はぁ・・・・はぁ、私も・・おぶってぇ・・・・はぁ・・・」
なかなかの大きさのザーゲンを抱えるイエレナが片方の肩を差し出す。
エルフをおぶるアスカは後ろを気に掛ける。しかし特段追いかけてくる人影は見えなかった。
エルフの体を浮かび上がらせ、エルフを持ち直しながら、物騒すぎると村の連中に文句を吐く。
頭の中では、先ほどの村の連中を思い出している。目には殺意はなかったが、手に持っていた道具には明らかな排除の念があった。
「・・・・もうすこしだけ、離れよう。」
アキナが見るエルフの顔にはこれまでの笑顔はないが、それがかえってエルフを年相応にさせていた。
アキナはイエレナに抱えられながらエルフに手を伸ばす。頭を撫で、頬を擦る。
こしょばい?と聞くと、うんと微かに笑う。
「もういいかな。」
アスカはもう一度後ろを見て言うと、イエレナに声をかける。そしてエルフを地面に降ろそうとすると、肩のあたりを強く掴まれる。
「もう、降りていいよ?」
アスカの耳には葉の擦れる音が響く。
「・・・・・あともう少しだけ、離れよ。」
エルフの顔にはふざけている気配はない。
アスカは考えるよりも先に、エルフを抱えなおし、また走り出す。
「イエレナ、もう少し走るよ。それと、もういいってところで声をかけてくれない?」
エルフはアスカの問いに黙ってうなずく。
そしてしばらく走ると、エルフの肩を掴む力が緩まる。
「もうだいじょぶ。」
アスカはエルフを離すと、その額の汗を拭う。
周囲には人っ子一人いない。あるのは緑か、なにかしらの動物だけである。
エルフに鳥が一羽二羽集まってくる。
耳を掻くようにくちばしでつつくとすぐに飛んで行ってしまった。
「・・・・・・・・じゃぁ、とりあえず治療・・・・・・」
アキナは魔法の鍵のことを思い出すとともに、イエレナに視線を送る。そして願う。すべてが良い方向に行くことを。一つの成功のどれかを選ぶなんてことはできなかった。
「きっとうまくいく。」
呟かれたアキナの言葉でアスカが魔法の鍵を取り出す。
アスカは微かに願ってしまう。弟の心の世界に入れなかった原因はこの魔法の鍵にあると。
ごくりと息を飲み、もう一度強く鍵を握る。
そんな様子にエルフは興味津々である。
”アーフシュリーセント”
魔法の鍵が金色に輝きだし、光りの筋がザーゲンへと架かる。
アスカは一歩踏み出し、ザーゲンと向かい合う。
ザーゲンはここまで一言も喋っていない。その肌は死人のように白く、なにより凍り付いている。真っ赤な髪が嘘のように。
アスカはアキナを見る。そこには同様に紅い髪がある。しかしそれは太陽のようなである。赤であり、黄であり、オレンジである。
ふぅと細い鼻息を漏らす。
エルフもふうっと息を吐くとアスカへと近づき胸のあたりに手を当てる。「だいじょぶだよ。」と笑顔を咲かせる。
無垢な笑顔だ。
そんなものでも、アスカの心は軽くなるような感触にあった。
カチャッ
ザーゲンの心の世界が開かれる。
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