閑話‐弟
ヴィーダーからアスカの父がいなくなった次の日、アスカは魔法の鍵を握り、弟であるイエレナを前にしていた。
アスカの顔には覇気はない。しかしすべてが憂鬱で覆われているわけではなかった。そこには確かな前向きさがある。
プーベテートを治しにまわり始めて、数年、アスカは19歳となり、イエレナは9歳であった。そんなイエレナがようやく戻ってくる。カンナイは、ヌーアインシャテンを倒すことなく、治療を終えることができた。それならばイエレナにおいても適応が可能である。
”アーフ・シュリーセント”
アスカが魔法の鍵を黄金に光らせながら、魔法を唱える。
イエレナに浮かび上がる胸のあたりの鍵穴に鍵を差し込み、その手首を捻ろうとする。
ギッッ
回らない。
ギッ・・・ギギッ
アスカの目が変わる。
「ア・・・アスカ?・・・・・。」
アキナはアスカの目を見る。
ギッ・・・・ギッ・・・・・・・・・・ギッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アスカは一言もしゃべらない。
「なんで?・・・・・どうして?・・・・なんでなのよ・・・・」
3人をつけていたのかハッセンが軽やかにに歩いてくる。何も言わずに近づいてくる。そしてアスカの背後に届くほどになると、好物を見るようにアスカの顔を覗き込む。
ハッセンはアスカの眼鏡を取りながら「・・・・・良い瞳。」と続ける。
「なぁに?鍵穴壊れちゃったの?」
人を逆なでする、男にしては高い声。
アスカは何も言わない。
後方で罵り合うような怒声が聞こえようと何も言わない。
イエレナも同様に。
一時的に二人だけの空間が出来上がる。
アスカは俯く。俯いたまま、イエレナの肩に手を置く。しかしそれはすぐに垂れ、落ちる。力の入らない彼の手は、イエレナを捉えられない。イエレナを抱くことができない。
ここでひとつの邪魔を追い払ったアキナが戻ってくる。アキナは言うのだった。きっと回らないのは、イエレナがどうとかいうわけじゃないと。魔法の鍵が壊れてしまったんだと。ハッセンが持ってるんだから、きっと使える鍵が他にもあるはずだと。
「また依頼を受けましょ?そこで確かめてみようよ。きっとそこでも魔法の鍵じゃ開かないからさ、だから・・・・・イエレナがこのまま戻らないなんてことは・・・・絶対ないんだから!」
アスカはアキナの顔を見上げ、微笑むだけをする。
「あれよ、もし新しい鍵が見つからないならさ、ハッセンの鍵で確かめてみましょうよ。あいつも人殺しではあるけどさ、ほら鍵を借りるくらいならさ・・・・」
アキナの耳にアスカの声が入る。
空気を破裂させる大きさの声
続けてアスカは喋る。
「まぁいいや・・・・うん、そうしよう。・・・・・・次の依頼に行こう。」
アスカは立ち上がり、一人で歩き始める。
アキナは落ちていたアスカの眼鏡を拾い、アスカに駆け寄る。
そしてそれにつられたイエレナも後をついていくのであった。
読んでいただきありがとうございます。
感想お待ちしています。
次話もお楽しみください。




