父さん‐じゅうさんこめ
アスカは父親と酒場での時間を過ごし、次の日を迎えた。
しかしその父親は、もうどこにも見当たらなくなっている。
歩き呆け、海を眺め、アスカはぼうっと立ち尽くす。
「・・・・・・なんで?・・・いやっ・・・・俺でもそうするか・・・・・。」
アスカは宿に戻り、布団を被るとベットで横になり続けた。そして考える。きっと死刑だ、と。
しばらく時間が経つと、みかねたアキナが言う。
「アスカ・・・・・そろそろ起きようよ。」
日が落ちてきている。昨日みたような太陽も、落ちてきている。
毛布にくるまるアスカが言う。
「アキナ・・・いる?・・・・いない?・・・・そう。いない・・・。」
アスカは眠りに落ちていく。
一方、アキナは外でハッセンに絡まれていた。
「ねぇねぇ、アスカくんは?宿?・・・・・ねぇ。ねぇってば、僕も、今暇なんだよぉ。」
アキナがイエレナに目配せをし、何かを伝える。
するとイエレナ腕をまくり、ハッセンの脛に目掛けて、指を弾く。
ハッセンは目を大きく開き、声を殺して叫ぶ。
「私たち、いま忙しいの。アスカとイエレナのお父さんを探してるの。だからあんたなんかに構ってる暇ない。ごめんなさいね。」
いまだ足を抑えて縮こまっているハッセンが隠れた目を歪ませる。そこには笑みがある。
「ふーん。人殺しなんて探して。正義感満載ですねぇ。」
立ち止まり、アキナが静かにハッセンへと視線を動かすと、いまだハッセンの口は楽しそうに動いている。どんどんと軽くなる口は詳細に、軽快に喋る。
「・・・・・・・・ペラペラと・・」
アキナは家に帰る。そのひりつく片手を隠しながら、アスカのいる部屋に入る。
アスカは眠っていた。アキナが声をかけても起きはしない。部屋の椅子には、脚を拭いたであろうタオルが掛けられている。アキナはそれを触るがひりひりとする掌を刺激するだけであった。
「今・・・・あなたのお父さんを探してきたけど。やっぱり会えなかった。」
「私、殴ってきてやったわ。人を殺すような人を。」
アスカからの返答はない。
「明日・・・明日だよ。イエレナを治そ。ねっ・・・・今日はもう休んで、明日頑張れば・・・・。」
アキナは言葉を止める。アキナにとって今の状況は人形に話しているも同然であった。
アキナは思う。手立てがない。
比重の偏ったタオルが椅子から落ちる。
ああ、この部屋にイエレナはいない、そう思う。
アスカを守る毛布が、引き剝がされる。そして喋るという役目を忘れたアスカの唇が、口が微かに潤う。
「はっ?」
思わず出る声。
鼻先が触れ、目を瞑るアキナが間近に映る。伝わりあう老いを知らない潤うばかりの唇。若さを強調する張りのある二つの唇は繋がる。
しかしパンッと甲高い音を立てる。アスカの手はアキナを振り払う。アキナの頬で音を立てながらそれを振り払う。
「君の好意に・・・・憐れみをのせないで・・・・・」
アスカは身を立たせるが、項垂れる様子に変わりはない。俯き、白いシーツを見つめる。
アキナは立ったまま頬を抑え、やっと痛みの引いた掌をアスカの手に、ひりついているアスカの手の甲に置く。
そして気づく。アスカの手の内には、ひとつの紙切れが握られていることに。
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