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魔術的鍵師物語  作者: mono
第五

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53/82

父さん‐じゅうにこめ

 アスカは、父親と対峙する。

 アスカの父、波打つ海のギリギリに立っている。


「・・・・イエレナは治ったか?」


「いや・・・・治ってない。俺は、あの子を治した。」


「・・・・そうか。」


 遠くでは、太陽が燦燦としている。波が揺れている。


「父さん。・・・・影を倒すのに、魔法を使わなかったよ。なにもそれで別にイエレナが倒したってわけじゃない。」


「・・・・・・」


「もう殺さなくていい。・・・・プーベテートを生み出さなくていいよ。力が無くたって、イエレナを治せるから。」


 波が引いていく。


「何を言ってるのかさっぱりだ。もっと・・・・うまく話して、くれ・・・・。」


 依然、アスカの父は太陽を見ている。


「・・・・イエレナのことはもう・・・・俺に任してくれ。だから・・・・・父さん、ゆっくり休んでくれ。」


 アスカは、陰のある父親の背中を見る。


「・・・・イエレナは治るのか・・・・もう殺さなくてもいいのか。」


「そうだ。あんたはもう殺さなくていい。何もしなくていい。だから・・・」

 

 言葉は遮られる。


「じゃあ、駄目だな。休むなんてことはできない。俺に罪を償う以外の道はない。当然だよな・・・人を殺したんだ。」


「・・・・・・・・隠せばいい。ずっと隠せばいい!それを隠している罪悪感を持ち続ければいい!だから・・・・またイエレナの笑顔を見てくれよ。俺たちを抱きしめてくれよ。」


 アスカは、父親の隣に立つ。すると足先に波が触れそうになる。


「ああ、分かったよ。」


 父親は、皺に囲まれた目を閉じ、再び開ける。隣の息子の頭へとゆっくりと手を動かす。その渇いた手でアスカを撫でる。


「なぁ、アスカ。いくつになる?・・・・まぁいい。酒場で待ってる。そこでゆっくり話そう。」


 アスカの父は、そう言い残し、アスカを置いて先に酒場へと向かっていった。

 すると入れ違いにアキナが来る。


「?・・・・・どうした?」


「・・・・ん・・・いや、なんか気になって。その、さっきの人・・・・誰?」


 アスカは、毅然として言う。


「父さんだよ。俺の父親。もうだいじょぶって話してた。」


 アキナは過ぎていったそれの背中を見る。アスカよりも手前にいるためアキナには海の波は届かない。


「アスカ・・・足…濡れてる。」


「ああ、だいじょぶだよ。後で拭くし、それに乾くよ、どうせ。」


「・・・・・そう。」


 そういうとアスカも父を辿り、酒場へと向かう。濡れた足には、少しづつ砂がつきまとっていく。

 酒場。

 カウンターにアスカとその父が横になって座る。

 先ほどとは別の曲であるが、いまだコクジンが歌っている。


「ワインをふたつお願いします。」


 赤でよろしくって、と酒場の女がマスターに言い、準備に移ったかと思うと、盛大に溢す。その赤の粒が多少アスカとその父親にかかる。

 アスカの父は、ワインのつく自分の手を拭く。そして息子に目を向け、だいじょぶかと手をアスカに向けるが、すぐに赤が香るその手を戻し、自分の視界から外す。

 その晩、酒場における二人の空気には、対話の音よりも酒場に広まる歌声の方が心地よくも漂うのだった。

読んでいただきありがとうございます。

感想お待ちしています。

次話もお楽しみください。

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