父さん‐じゅうにこめ
アスカは、父親と対峙する。
アスカの父、波打つ海のギリギリに立っている。
「・・・・イエレナは治ったか?」
「いや・・・・治ってない。俺は、あの子を治した。」
「・・・・そうか。」
遠くでは、太陽が燦燦としている。波が揺れている。
「父さん。・・・・影を倒すのに、魔法を使わなかったよ。なにもそれで別にイエレナが倒したってわけじゃない。」
「・・・・・・」
「もう殺さなくていい。・・・・プーベテートを生み出さなくていいよ。力が無くたって、イエレナを治せるから。」
波が引いていく。
「何を言ってるのかさっぱりだ。もっと・・・・うまく話して、くれ・・・・。」
依然、アスカの父は太陽を見ている。
「・・・・イエレナのことはもう・・・・俺に任してくれ。だから・・・・・父さん、ゆっくり休んでくれ。」
アスカは、陰のある父親の背中を見る。
「・・・・イエレナは治るのか・・・・もう殺さなくてもいいのか。」
「そうだ。あんたはもう殺さなくていい。何もしなくていい。だから・・・」
言葉は遮られる。
「じゃあ、駄目だな。休むなんてことはできない。俺に罪を償う以外の道はない。当然だよな・・・人を殺したんだ。」
「・・・・・・・・隠せばいい。ずっと隠せばいい!それを隠している罪悪感を持ち続ければいい!だから・・・・またイエレナの笑顔を見てくれよ。俺たちを抱きしめてくれよ。」
アスカは、父親の隣に立つ。すると足先に波が触れそうになる。
「ああ、分かったよ。」
父親は、皺に囲まれた目を閉じ、再び開ける。隣の息子の頭へとゆっくりと手を動かす。その渇いた手でアスカを撫でる。
「なぁ、アスカ。いくつになる?・・・・まぁいい。酒場で待ってる。そこでゆっくり話そう。」
アスカの父は、そう言い残し、アスカを置いて先に酒場へと向かっていった。
すると入れ違いにアキナが来る。
「?・・・・・どうした?」
「・・・・ん・・・いや、なんか気になって。その、さっきの人・・・・誰?」
アスカは、毅然として言う。
「父さんだよ。俺の父親。もうだいじょぶって話してた。」
アキナは過ぎていったそれの背中を見る。アスカよりも手前にいるためアキナには海の波は届かない。
「アスカ・・・足…濡れてる。」
「ああ、だいじょぶだよ。後で拭くし、それに乾くよ、どうせ。」
「・・・・・そう。」
そういうとアスカも父を辿り、酒場へと向かう。濡れた足には、少しづつ砂がつきまとっていく。
酒場。
カウンターにアスカとその父が横になって座る。
先ほどとは別の曲であるが、いまだコクジンが歌っている。
「ワインをふたつお願いします。」
赤でよろしくって、と酒場の女がマスターに言い、準備に移ったかと思うと、盛大に溢す。その赤の粒が多少アスカとその父親にかかる。
アスカの父は、ワインのつく自分の手を拭く。そして息子に目を向け、だいじょぶかと手をアスカに向けるが、すぐに赤が香るその手を戻し、自分の視界から外す。
その晩、酒場における二人の空気には、対話の音よりも酒場に広まる歌声の方が心地よくも漂うのだった。
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