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魔術的鍵師物語  作者: mono
第五

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51/76

父さん‐じゅっこめ

 カンナイのヌーアインシャテンと闘うアスカとイエレナ。

 その背後ではアキナとカンナイがそれを見守っていた。

 カンナイの眼にはアスカの魔法が入り込んでいる。光り輝くアスカの唱える雷はそれを煌めかせる。

 そして当のアスカは、息が切れかかっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・もう、まだかよ・・・」


 魔法の書をめくり、幾度となく稲妻をヌーアインシャテンに浴びせ続ける。そしてイエレナも砕かれた片手を気にすることなくヌーアインシャテンへと挑み続けていた。

 しかしカンナイのヌーアインシャテンはほとんど動こうとはしなかった。ただ一身に攻撃を受ける。といえども決してその影が崩れることはなかった。イエレナでも容易く打ち倒すことのできないヌーアインシャテンは初めてのもの、よもやその片腕を使い物にならなくさせるほどでもある。

 アスカは考える。決してこちらの猛攻に身を動かさないというわけではない。一度手をやめる判断がよぎる。しかしかといって攻撃をやめれば、先手を取られたときの様な強襲が考えられる。そして近づいてむやみに攻撃をすれば、イエレナのように反撃を食らってしまう。

 ヒットアンドアウェイと魔法による遠距離攻撃。これを続けたところで埒が明かない。


「・・・・ヌーアインシャテンって何なんだ?」


 今までは力によって解決してきた。いや正しく言うのであれば、物理的にである。大抵の場合、ヌーアインシャテンは攻撃的だ。アスカ達は当然のように、力に対して力で向き合ってきた。これも正解である。しかしもし別の糸口があるというならば。

 アスカに夢の王国トラオムでの患者が思い出される。カルモのヌーアインシャテンは、赤子の様相を持った瞬間があった。

 アスカがカンナイを視界の内に捉える。そして言う。


「……同じ?」


 疲労にまみれた途切れ途切れの声は続く。そして漏れ出る吐息には、黄金が紛れる。


「イエレナ・・・・一回攻撃は止めだ・・・・少しだけ、待っててくれ。カンナイの心の世界を閉じたい。」


 アスカは密かに光り輝いている魔法の書を閉じ、ゆっくりとヌーアインシャテンへと近づいていく。

 立ち尽くすカンナイの影には眼はない。そして口もない。

 太陽を背にしたアスカの影は大きく伸びている。そしてヌーアインシャテンに重なる。


「・・・・・カンナイ・・・君は、よく本の読むんだよね、俺もそうなりたいよ。ねえ、君は・・・どうしたい?」


 陰からその闘いを見ていたカンナイにその声が届く。


「えっ!?・・・・どこ、から?」


 アキナにはその声が聞こえない。なぜならアキナは走り出しているからである。ヌーアインシャンテンを目の前にしたアスカに向かって走り出したからである。


「・・・・・僕は・・・・・分かんないんだ。パパやママを殺した人間を殺したいと思う。でもそれだと、最低な奴と同じになったちゃう。それじゃパパもママも喜ばない。だっていつも言ってた。パパもママも、好きな本が読めてればそれでいいって。でも憎い・・・」


 ヌーアインシャテンの体が今にも動きそうになる。しかしアスカは動じない。ましてそれを支えるようにやさしく見つめ、手を握り、それを温めていく。


「憎い・・・憎い・・・僕は、奴が憎い。憎い?・・・・・・・どこから来たんだ?この憎いは。殺されて・・・・辛くて、悲しくて・・・・殺したくなって・・・・それで。」


 カンナイはアキナを見る。アスカのもとへと走るアキナを見る。そして思うのだ。ああ死んでほしくないんだなと、助けたいんだなと。


「死んでほしくないのか・・・・・死んだらどうなる?・・・・・悲しい寂しい。そうだよ、僕は悲しかったんだ。辛かったんだ。」


 本好きの少年は、己の気持ちの所在を忘れてしまっていた。

 カンナイは仰向けに倒れ、涙を溢す。誰にもその涙が隠れないように仰向けになる。溜めては落ち、溜めては落ちていく。

 そんなカンナイの上を野原の花びらが通り過ぎていく。花びらと花びらの影がカンナイの上を通り過ぎる。

 青い空に、小さな星が咲く。ひらりと輝いては落ちていく。落ちれば落ちるほど、花びら自身の影と近づいていく。そしていつかはそれと一体化する。

 アスカが目覚めたときに振り落ちた魔法の鍵がひとりでに飛び、カンナイの心の鍵穴に刺さる。

 アスカの手が動く。すると滞りなく、その鍵は回り、カチッと音とたてて、開かれたカンナイの世界に鍵がかけられる。

 抑え込むようなカンナイの泣き声とともに、ヌーアインシャテンは崩れ、その形はなくなっていった。

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