父さん‐ここのつめ
現実の世界。
カンナイの心の世界とは異なり、本の欠片もない。ただ風に舞う花びらが儚くアスカに向かっていく。
「・・・・・スカ!!・・・アスカ!!・・・なぁにぼうっとしてるのよ!!・・・・・早く立ち上がって!!」
アスカを支えていたアキナが慌てふためく。
アスカも事態を把握し、魔法の書に手を向ける。
しかし間に合わない。アスカ目がけて、脚が振り下ろされる。
「ッッ!!」
アスカは思わず、魔法の書を手放し頭の上で腕を交差し、身を守る体勢になる。
しかし無駄になる。
カンナイのヌーアインシャテンがアスカの寸前で止まっている。身軽になったイエレナによってヌーアインシャテンの蹴りは止まられたようだ。
アスカが感謝よりも先に別の言葉を溢す。
「イエレナと・・・・一緒か。」
カンナイのヌーアインシャテンは、2本の足がある。2本の腕がある。顔がある。耳がある。鼻がある。そう人型である。
陰の詰まるカンナイのヌーアインシャテンは、成人男性よりも少しばかり大きいが、その身は細く見える。人間らしい筋肉も関節もあるようには見えない。ただただ不気味さを、圧倒的違和感を醸し出している。
イエレナが耐え続けるが、次第にそれも押されていっている。
「トゥオーノ!」
アスカは与えられたほんの数秒で、魔法を唱える。イエレナに圧を与え続けるヌーアインシャテンの足を掴むと、アスカの手から雷が鳴る。バリバリと音をたてて、衝撃とともに帯電する。
ヌーアインシャテンは、その脚を戻し、力なくただ立つ。
一撃を止められたヌーアインシャテンは拗ねたのかぴくりとも動こうとはしない。
先制はヌーアインシャテン。
次に動くのはアスカである。
「迷うな・・・・・・今は・・・目の前!」
アスカがその両頬を叩く。一回、二回と叩く。
「ああああああああああああああ!!」
叫ぶ、柄にもなく叫ぶのだ。魔法の書をなぞり、その文字を光らせる。
大胆に腕を振り上げ、人差し指で天を突きぬく。最後、その標準をヌーアインシャテンに定め、腕を下ろす。
「ランポッ!!」
その声とともに、数個の雷が落ちる。雷雲なんてものはない。しかし、アスカの魔法は、地面を穿つ。
複数の稲妻と破裂音の中で、ヌーアインシャテンはそれを浴びる。
焦げた花が風に乗る。
それを掻き分け、イエレナが接近する。細やかな感覚で地が蹴られる。小さな1枚1枚の花びらがイエレナと棒立ちのヌーアインシャテンの間を過ぎる。
鈍い音が響く。
雷光が鳴らす目の覚めるような渇いた亀裂の音ではなく、血潮の紛れた地面に飲み込まれたような音。それが意味するのは、ヌーアインシャテンに放ったイエレナの拳が、歪とかしたということである。
花園に咲く審美的乱戦。
ただカンナイの治療を目的とするそれは、さらなる花びらを空に零れさせていく。
読んでいただきありがとうございます。
感想お待ちしています。
次話もお楽しみください。




