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魔術的鍵師物語  作者: mono
第五

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50/84

父さん‐ここのつめ

 現実の世界。

 カンナイの心の世界とは異なり、本の欠片もない。ただ風に舞う花びらが儚くアスカに向かっていく。

 

「・・・・・スカ!!・・・アスカ!!・・・なぁにぼうっとしてるのよ!!・・・・・早く立ち上がって!!」


 アスカを支えていたアキナが慌てふためく。

 アスカも事態を把握し、魔法の書に手を向ける。

 しかし間に合わない。アスカ目がけて、脚が振り下ろされる。


「ッッ!!」

 

 アスカは思わず、魔法の書を手放し頭の上で腕を交差し、身を守る体勢になる。

 しかし無駄になる。

 カンナイのヌーアインシャテンがアスカの寸前で止まっている。身軽になったイエレナによってヌーアインシャテンの蹴りは止まられたようだ。

 アスカが感謝よりも先に別の言葉を溢す。


「イエレナと・・・・一緒か。」


 カンナイのヌーアインシャテンは、2本の足がある。2本の腕がある。顔がある。耳がある。鼻がある。そう人型である。

 陰の詰まるカンナイのヌーアインシャテンは、成人男性よりも少しばかり大きいが、その身は細く見える。人間らしい筋肉も関節もあるようには見えない。ただただ不気味さを、圧倒的違和感を醸し出している。

 イエレナが耐え続けるが、次第にそれも押されていっている。


「トゥオーノ!」


 アスカは与えられたほんの数秒で、魔法を唱える。イエレナに圧を与え続けるヌーアインシャテンの足を掴むと、アスカの手から雷が鳴る。バリバリと音をたてて、衝撃とともに帯電する。

 ヌーアインシャテンは、その脚を戻し、力なくただ立つ。

 一撃を止められたヌーアインシャテンは拗ねたのかぴくりとも動こうとはしない。

 先制はヌーアインシャテン。

 次に動くのはアスカである。


「迷うな・・・・・・今は・・・目の前!」


 アスカがその両頬を叩く。一回、二回と叩く。


「ああああああああああああああ!!」


 叫ぶ、柄にもなく叫ぶのだ。魔法の書をなぞり、その文字を光らせる。

 大胆に腕を振り上げ、人差し指で天を突きぬく。最後、その標準をヌーアインシャテンに定め、腕を下ろす。


「ランポッ!!」


 その声とともに、数個の雷が落ちる。雷雲なんてものはない。しかし、アスカの魔法は、地面を穿つ。

 複数の稲妻と破裂音の中で、ヌーアインシャテンはそれを浴びる。

 焦げた花が風に乗る。

 それを掻き分け、イエレナが接近する。細やかな感覚で地が蹴られる。小さな1枚1枚の花びらがイエレナと棒立ちのヌーアインシャテンの間を過ぎる。

 鈍い音が響く。

 雷光が鳴らす目の覚めるような渇いた亀裂の音ではなく、血潮の紛れた地面に飲み込まれたような音。それが意味するのは、ヌーアインシャテンに放ったイエレナの拳が、歪とかしたということである。

 花園に咲く審美的乱戦。

 ただカンナイの治療を目的とするそれは、さらなる花びらを空に零れさせていく。

読んでいただきありがとうございます。

感想お待ちしています。

次話もお楽しみください。

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