父さん‐むっつめ
ヴィーダーからアプシート行きの船に乗り込んだアスカ達三人は、日をまたいでアプシートへと到着した。
「ア゛ァァ~・・・船、しんど。」
アスカが、すぐそこにあったベンチに腰を掛け、項垂れる。
使い物にならなそうなアスカの代わりに、アキナがカバンから依頼書を取り出す。
「う~ん・・・・・あっちかな?」
依頼書に書かれた地図をぐるぐると回転させながら頭を掻く。
しかたなくアキナもベンチに座り、一呼吸を入れる。
「まっ、焦ることはないわよね。」
アキナが背もたれに身を寄りかからせ、アスカの肩に手を置く。
「なんか・・・俺が励まされてる・・・・」
「冗談よ。」
アキナの眼は真剣、代わりに口角が上がっている。
「はぁ・・・そろそろ行きますかねぇ。」
アスカが立ち上がり、澄んだ空気を思いきり吸い込む。体を伸ばし、大きく欠伸をする。
「よし!」
アスカが座っているアキナに手を差し出すと、アキナもそれに応じ、スムーズに立ち上がる。
そうして進み始めた三人は、依頼の家を目の前にする。
無意識か、アスカは大きく息を吸ってから扉を叩き、その古びれたそれを軋ませる。
「はいはーい。」
中からは女性の声が聞こえてくる。若くはない。扉が開かれると、少しばかり歳が過ぎた女性が出迎える。
「ええ、っと・・・・・どなたかしら?」
「アスカと申します。鍵師の依頼を受けたのですが、間違いないですかね?」
年増な女は濡れた手をエプロンで拭い、よそいきのその表情を変える。
「向かいの・・・・いや少しついてきてください。」
そういうと女は三人を連れ、道を挟んだ反対側の家に歩いていく。扉の前で一度立ち止まり、一つの提案をする。
「そっちの小さい子には、見せない方が良いかも。」
「・・・・じゃあ私とイエレナは外で待ってるわよ。」
アスカと女は二人を残し、扉の開かれた家にあがる。
生温い空気に腐敗臭が混じっている。
誰もいない。生に満ちた人間は誰もいない。ひどく肌の冷え切ったと見える大人が二人、綺麗に並べられている。加えて体の大部分は、ブランケットが掛けられている。まるで何かを隠す様に。
そしてもう一人。寝込む大人に背を向ける形で一人の少年が座っている。
「・・・・あの子か。」
白髪の少年は、血に染まったような朱色の眼をぼんやりと持っている。
アスカはその少年に近づき、頬に触れる。自分の手と彼の頬の色の違いでプーベテートであることを実感する。
「ねぇ、君の名前教えてくれないかい?」
すこし間が空く。
「喋らないわよ。・・・・・カンナイ。その子の名前は、カンナイ。・・・・両親をなくしたかわいそうな子・・・・」
アスカが目を細める。
「鍵師さん・・悪いけど私はもう戻るわ。自分の子が大事なの。」
「はい。分かりました。ありがとうございます。でも・・・焦らなくって大丈夫ですよ。多分、この町には、もう殺人鬼・・・親殺しはいないでしょうから。」
言葉の意味を理解する前に、女は帰っていってしまう。
「ごめんな、カンナイ・・・・。」
アスカは、触れていたの頬の手を静かに戻し、俯くのであった。
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