父さん‐いつつめ
イエレナが椅子に座り、地面に届かない足を遊ばせている。
「おーいアキナさぁん。もう家出ますけどぉ。」
アキナが体を起こす。
「昨日言った通り、今日中に海を渡ってアプシートに行きたいんですけど。」
「わかったぁ・・・てるわよぉ。」
昨晩、アスカが宿に戻ってきた後、アスカ達はすぐにアプシートに向かうことを決めていた。本来もうしばらくはここで休息をとる予定であったがアスカが父親と再会したことで、その歯車はズレたのだった。
アスカは、父親のことをアキナとイエレナには話していない。酒場にいた時にも用事とだけ言い残しただけであった。
「イエレナぁ・・・立たせてぇ・・・・」
イエレナが軽くアキナを持ち上げる。
イエレナの片手に乗せられたアキナが慌てふためき、今にも落ちそうになっている。
「行きますよ。」
アキナもようやく身なりを整え、宿の鍵を預ける。
「船?はでるの?」
「かなり頻繁に行ったり来たりしてるらしいから、てゆうかもう来てね?あれ」
アスカが目を細め、顔を前にずらす。
イエレナも真似して顔を突き出す。
「・・・・ダッシュ。」
アキナがその言葉を言ったことがきっかけとなり三人が走る。
すぐにアキナの息が切れる。
イエレナがアキナを肩に乗せ、余裕に走る。
アスカが置いていかれる。
「ちょ、ちょっと、はぁはぁ・・・まっ・・・ぜぇ、・・・」
アスカも流石に息が乱れる。走ることをやめはしないが、なんとか足を動かし続ける。
口の中が、血の味、鉄の味、マグロの味に似てくる。
「がんばってねぇ。」
横から突然、声が届く。アスカが聞いたことある。ハッセンである。
アスカの走りが止まる。
「・・・・ハッセンだっけ?あんたの名前。あんたも父さんの犯行に加担してるのんだろ?鍵があって魔法の書が使えて、あんたはプーベテートを治さないのか?」
「なんで?・・・なんで他人なんか幸せにしなきゃなんないの?」
あっけらかんと笑うハッセンは、小気味よく首をくねくねと揺らしている。
落ちいてきたアスカの体に酸素が上手く循環していく。そうしてハッセンに人差し指を突きつける。
「あんたの事情は知らねえが、あんたとも話がしたい。今じゃなくてもいづれ、絶対あんたも助ける。」
「助ける?・・・・決めつけるねぇ。・・・・まぁ楽しみに待っておくよ、アスカぁきゅん。」
指をばらばらに動かしながら、ハッセンがふらふらと手を振る。
アスカはそれに応えず、何もしないまま走り出す。
またしばらく走るとようやくイエレナ達に追いつく。
「なぁーにしてんのよぉー。はーやーくー。」
イエレナに担がれていたアキナが叫んでいる。
船はいまだ出航していない。
全員の息が揃ってから、三人は船に乗り込んでいった。
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