父さん‐みっつめ
瞼を隠す黒髪から瞳をちらつかせ、ハッセンが不敵に笑っている。
「俺の父さんはどこにいる!・・・・・・教えくれ。」
「怖いですねぇ、アスカくん。ナンパのコツは余裕を見せることですよ。」
ハッセンがアスカの輪郭をなぞるように視線を動かす。アスカと同じ青の瞳で。ただ違うのは余裕の在りかである。
「僕は、君のお父さんと一緒に行動してるんですよ。アスカ君みたいに、弟のためを思って。」
ハッセンが一つの書物を机でひけらかす。
「・・・・・・とうさんはどこにいる?」
「しつこっ、砂浜・・・海にでもいるんじゃないですかねぇ。それよりどうです?一緒に食事でも・・・」
ハッセンがその手をアスカの頬に手を伸ばす。肉の層のない彼の手が、アスカのえらの骨と固まる。
アスカは、ハッセンの手首を掴み、静かに除ける。
「悪い。また今度。・・・・それともう少し飯食った方が良いぞ。」
アスカは、アキナ達の席に戻り、何かを話す。そうすると、店を出る。
潮風を受ける酒場の裏側に回り、水平に広がるビーチを見渡す。
「・・・・・・いた。」
アスカは駆け出し、階段を駆け下りる。踏み外し、盛大に転ぶ。しかしそんなことは関係ない。
砂浜には、アスカの視界には、海の果てを見つめる一人の男がいるのだ。数年前に別れた自分の父親がいるのだ。
「とうさん!!・・・・父さん!・・・会いたかった。」
陸に背を向けるアスカの父親。
アスカは迷いなく声を浴びせる。しかしそこには少しの距離がある。
男は振り返る。
「・・・・アスカか、世話かけたな。」
男はアスカへと近づいていく。
使い古したような声の男。年相応の皺ができたての顔は、表情を洩らさない。そして事実、かさつく男の手はアスカの背中と首裏に伸び、アスカを引き寄せる。
「でかくなったな。・・・すまなかったな。置いていってしまって。」
懐に潜り込んだアスカは、男の胸に顔を預ける。
「・・・・会えてうれしいよ。父さん。」
「泣いてるのか?」
アスカが男の服を鷲掴む。
「泣いてない・・・・・・ただ、俺も寂しかったって気づいただけだよ。」
「そうか・・・・でもそれも終わりだぞ。」
アスカが男の胸元で瞳を大きく開く。
「は!?・・・・ど、どうゆうこと?」
声の重さは、その低さだけにあるのではなかった。
「ようやく、ようやく現れたんだ。いや作り出せたよ。イエレナのヌーアインシャテンを倒せる逸材を。」
アスカは、首元の男の手の熱さが気になってくる。
「それは・・・・どこに?・・・もしかしてアプシートなんて言わないよな。」
「・・・・・・よく知ってるな。もしかしてもう依頼が来たのか?それは好都合だな。・・・・それよりも噂に聞いているぞ。治して回ってるんだってなプーベテート。魔法の鍵を渡しておいてよかった。人を助けるのはいいことだぞ。それに・・・・俺の償いにもなる。」
アスカは首元に何かが垂れる感覚をもった。なにかドロッとした液体、それでいて人間のような熱さのある何かが。
「つ・・・・・・・・・・放せ・・・・放せよ!」
「どうしたんだ急に?・・・・アスカ?」
アスカがその男から離れるために自分よりもガタイの良いそれを思いきり突き飛ばす。
アスカ同様に眼鏡をかけた男は、それの位置を直す。そして男は訳の分からないといった顔をしている。
アスカ大きく唾を飲み込む
「父さん・・・あんた人殺してるだろ。・・・・親殺しってアンタだろ!」
男の顔には、太陽に背を向けたせいなのか陰が籠もるばかりであった。
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