三人の始まり‐よっつめ
二人だけのいる世界。白い世界で先に目覚めていたのは、アスカであった。
後から目覚めたアキナは当然困惑し、両の膝、太ももから足首にかけてをぺたりと地につけ、へたり込んでいる。
「アスカ・・・ここどこ。というか、力が入んなくて・・・立てない。手ぇ貸してくれない?」
そういわれたアスカは、アキナに近づいていき手を差し出す。
アキナはそれに縋るように、彼の手を掴もうとする。
しかし掴めない。まるで何もしなかったのではと疑ってしまうほど彼の手を掴めなかった。
「え。なんで・・・・」
「アキナ、ここは現実の世界じゃないんだ。言ってしまえば君の世界。誰にも見られない君だけのはずの世界なんだ。だから俺はイレギュラー的存在、物理的には君に干渉できないんだ。」
「何をいってるんだか全く分からないわ」
「だよね。まあでも君もなったんだ。プーベテートに。だから俺が開けたんだ。魔法の鍵で・・・君の世界を。だから今は治療の最中ってところかな。ただ・・・・。俺にはもうどうすることもできないんだ。俺にできるのはせいぜい魔法の鍵で君の世界を開くこと、だから、そうだな。後は君次第。」
「ふふ、何もできないって・・・、話せてるじゃない私と。」
アキナの精神状態は落ち着いていた。笑みを見せる瞬間もあるほど、安定した様子であった。これも白い世界にいるおかげであるのやもしれない。そしてアスカも同様に。
「ねえ、そういえばあなたいくつ。私は18。」
「へえ、奇遇だな。俺もだよ。」
アスカはアキナの前で座り始め、目線を揃える。
「いつからやってるの?医者というか、鍵師。その・・・仕事は、何年目?」
「うーん覚えてないな。父さんがいなくなってからだから、四年目ぐらいじゃないかな。あっちなみに弟は今は9歳かな。」
「四年かぁ。すごいね。子供二人で。私なんか、いつまでたってもパパの言ったことをするだけ。いつまでたっても。私のパパは村の村長だから結構幅利かせてて、だから村じゃかなり嫌われてるというか。私にいろいろやらせようとして、王都から家庭教師とかさ、なんていうかあるじゃんそういうの。私にこうなってほしいとかじゃなくて自分の地位をひけらかせるために、私にそういうことをしているというか」
アスカはうなずき以外の行動をしなかった。しかしアキナにはそれで充分であった。
「それでさ、私はさ、あの家からいなくなりたいの。誰かの見栄っ張りのための手段じゃなく、私が私のためになにかをしてたいの。だから分かってるの。私に足りないのは、あと一歩の勇気だって。翼を上手に動かす力じゃなくて、宙に浮かぶための助走と第一歩なんだって。それはわかってるの。」
目を合わせるために座っていたアスカはいつのまにやら、立ち上がっている。アキナは背中を見せるアスカに言葉を飛ばす。
「ねえアスカ、一つお願いしていい?君はそれでいいって言って?」
アキナに顔を見せないアスカは唇を緩く嚙み、その一瞬言葉を詰まらせる。しかしそれをアキナには悟らせようにとすぐに言葉をつくる。
「君は、君だ。だからそれで、良い。」
「うん。へへっ、ありがと。」
アキナは自分の頬を二度叩き、少しづつ立ち上がろうとしていく。震える足は、徐々に彼女の体を持ち上げていく。
白いワンピースを着ているアキナはどこか可憐であった。細まっている体でなんとか立ち上がろうとするアキナ。視線は強く何かを見つめている。
光の世界は、その表面が崩れていき、白い粒となって霧散していく。
そうすると次第に世界は、現実へと移っていく。
霧散した光は次々に消えていき、あるものは空へ、あるものは木の葉っぱの影へ、あるものは大地の中へと進んでいった。
イエレナに支えられていたアキナ、そして地面に顔を叩いて倒れたアスカの両者がその瞳を開く。
「ただいま。よし。頼んだ。」
顔をつけまま”へ”の字姿勢でそう叫んだアキナは、イエレナの代わりにアキナを支え始め、二人の姿越しに”それ”を見る。
アキナの影からつくられた、アキナの闇から具現化したそれ。
二足の足で立ち、大きな両腕は姿勢の悪さからか少しばかり前に垂らされている。獣のようにも見えるそれは、炎のように、自らの影を立ち昇らせている。
赤く光る眼光、酷く鋭利な両腕の爪、猛る雄たけび、踏みしめられ割れる大地。
バサリと落とされる黒いマント、雑に投げられた小さな帽子、姿をさらすイエレナ。
二つが衝突する。
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