三人の始まり‐みっつめ
治療を始めると言ったアスカは、なにやらぼろぼろの服を掻き分け、なにかを取りだそうとしている。
しかしアキナがそれを慌ててやめさせる。
「ちょ、ちょっと、待って。その・・・先に謝らせて。あなたにも、イエレナにも。治療はその後でいいから。だから・・・お願い。」
アキナはそういうと、くだけていた髪を整え、腰を綺麗に曲げ、両の掌を膝に触れさせながら頭を下げる。
「謝るよ。軽々しく病気を噓に使ったこと。あなたたちを不快にさせたこと。・・・ごめんなさい。」
「いいよ。別に。俺はプーベテートじゃないし。それに・・・・・。」
「それに?」
アスカが口元を片方の手で控えめに隠し、クスリと笑って見せる。
「病気じゃないのに、治療は後にしてくれっていったのがおかしかったからね、それで帳消し。」
「確かに。私のこれ、仮病だったわ。」
アスカは再びクスリと笑う。
緊張感のあった空間に、多少の笑い声が混じり始め、徐々に空気が緩んでいく。周囲の鳥の心地よさが混じるように。
「日も暮れてきたし、晩飯でも食べようか。」
そう言うと、アスカは、調理の準備をし始め、テキパキとそれを進めていく。
その間、イエレナはアキナの手を握り、アスカの準備した焚火を見つめ始める。つられるようにアキナも焚火をぼんやりと見始め、イエレナの頭を撫でる。
「ごめん。ごめんね。」
三人は食事を済ませていき、夜が深まっていく。
焚火の弾ける音は寝静まっていき、月に照らされながらその日を終えていった。
早朝、一番遅く目を覚ましたのはアキナであった。他の二人は、既に身支度は整えられており、アキナを待っている形になっていた。
「おはよう。帰るよ。」
気楽に言ったつもりのそれであったが、アキナには大層な言葉であったようで顔を曇らせる。
「ねえ・・・・あの、帰らなきゃダメだよね。流石に。でもせっかくパパから、ママから離れられたからさ、このまま私を連れてってよ。私さ・・・世界を見たいの。」
身を覆っていた毛布の上に正座となり、アキナが言う。言葉はさらに続く。
「私さ、いろいろやらされてきたの。村の、村長の娘として。やりたくないことも。やる必要のないことも。そして多分これからも・・・。だから・・・ね。私は、このレールから外れたいの。一刻も早く私が私であれることを見つけたいの。私という私を見つけたいの。じゃないと・・・今の私のままじゃ、今の私のまま進んだら、そんなの・・・・ただの汚らしい虚無だ。」
アキナはその言葉数が増えるほど、その語気が強まるほど、アキナの肌の白が極まっていき、その瞳から光の粒が消えていった。
アキナは何かから身を守ろうとしているのか口やら胸やら足やらに掌を移動させ、体を丸みこめていく。
声の大きさが限界に達した時、アキナは声を枯らし、口を開けたまま何も発しなくなってしまった。
アキナのよだれが溜まっていくアキナ自身の影は、心なしかよりその濃さを強めているようであった。
「結局・・・・イエレナ、鍵師の仕事だ。だから・・頼むぞ、今回も。」
アスカは、イエレナに目配せをした後、胸の内から金色に光る鍵を取り出す。そして身を縮こめるアキナの背中に回り、背後からその鍵をアキナの心の隙間にはめ込んでいく。
カチャッ
そう音が鳴ってから落ち着いた調子でアスカは言う。
”アーフ・シュリーセント”
その言葉と同時に、手首を丁寧に回す。
カチッカチッカチチッ
鍵が回る。
アキナの背中から光が漏れ始め、その光は、粒となり、雪となり周囲に降り注ぐ。
アキナから見える世界が、それらの光に包まれ、その一瞬で意識を失う。
力の抜けたアキナの体は、イエレナに支えられ、静かに地面に横にさせられる。
「?・・・ここ・・・どこ。え・・・・アスカ?」
瞳を開けたアキナがいたのは真っ白な世界。どこまでも広く伸びる純白の世界で、その中心でアキナは座り込んでおり、目の前にはアスカがいる。
アスカはそれを見守る形でアキナの目の前に立っているのだった。
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