筆跡‐じゅっこめ
タリとアキナの元へと帰ってきた三人。
ナイの涙はいまだ落ち続けている。
「ただいま。」
片身を隠し、顔をひょっこりとだけ覗かせるアスカが言う。
「よかった・・・おかえりなさい。」
アキナのおかえりの言葉はアスカに届く。
そして別のおかえりがナイにも届く。
「お、おかえり!」
タリの震える声。
潤む瞳は、月を反射している。タリはそれを拭おうとはしていない。じっとじっとナイを見つめている。
ナイは、涙を拭う手を止め、その大粒の涙をほったらかしにし、顔をあげる。
タリとナイは、眼を合わせあう。
「た、た、うっ・・・ひっく。ただいま!」
「うう、うあああぁぁあああ・・・ひぐっ、え、ああああ、あっあああ。」
泣いた。存分に泣いた。
両親をなくした二人の子供。けっして兄弟でもなんでもない二人、血のつながりはない。
ただ、今二人の手は繋がれ、どちらも思う存分に泣いている。
一人一人の涙が、その頬を伝い、服を抜け、腕を滑る。そして繋がれた手まで届いていき、一つの涙として落ちていく。
足りないものは補うしかない。それが何であれ、どんなタイミングでも、どれだけ時間かかったとしても。その確かな方法によって。
そしてそれを眺めていたアスカは、別の存在に気づく。
アキナである。アキナがアスカを凝視している。その黄色い瞳で。
「なんで入ってこないの?」
「いやっ、まぁなに・・・なんというか・・ねっほらなんか・・・うん。」
「いやうんじゃなくて、入ってきたらいいじゃない。」
「・・・・・・ははっ」
はぐらかすように乾いた笑いをつくったが、あまりのもそれは下手であった。
アキナが家から出て、アスカのその姿を目の当たりにする。
「それ・・・・・・なん、・・・・・・・・・・・・ううん・・・・・早く応急処置。はやく入って。」
アキナは、飲み込む。何もかもを飲み込みアスカの傷のことだけに意識を向ける。
座らせたアスカに常備している包帯やらガーゼやらを肩から反対側の腹部にかけて巻き付けていく。
ただ淡々とそして無言のまま。
「アキナ・・・・ありがとう。・・・・・怒って・・る?」
「怒ってないわよ、別に・・・」
アスカにはその感情が怒りにしか見えない。
「なんで私が怒ってると思うわけ?」
「なんでって・・・・・ん?泣いてる?なんでアキナの眼は潤んでる?」
アスカの声は静寂を纏っている。
「わかんないわよ。・・・・・・・イエレナだってケガするときはあるわよね。その時だって私は心配になるわよ。でもあなただとそれがもっと強いのよ。」
アキナがアスカを見つめる。
その瞳から涙は零れない。いまだ落ちずにそこに溜まっている。
「・・・怒ってはないってこと?」
むっとした顔になるアキナが、アスカのでこを弾く。
声をあげず痛がるアスカが、傷のないほうの手でデコを押さえる。
「ほらっ終わったわよ。」
アキナが素早く立ち上がり、デコを押さえるアスカに手を差し伸べる。
アスカもそれを拒まず、アキナと手を重ね合わせると、その体が引き上げられる。
アキナの手は温かかった。もしかしたら涙のせいかもしれなかったが、その手には確かな温もりあった。
次第に落ち着いていくこの家では、響いていた泣き声も鼻をすする音へと変わっている。
するとナイがアスカへと近づき、ポケットから何かを取り出す。
「そういえば、お兄さんにこれ・・・あげる。」
ナイは服を脱いでいることで顕わになっているアスカの魔法の鍵を見ながら、それを渡すのであった。
読んでいただきありがとうございます。
感想お待ちしています。
次話もお楽しみください。




