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魔術的鍵師物語  作者: mono
第四

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36/76

筆跡‐やっつめ

 シュパースの眠る隠れ家の地下。


 ”アーフ・シュリーセント”


 魔法の書を抱えたアスカがそれを唱え、目を伏せているナイの背中に立ち、魔法の鍵を差し込む。


カチャッッ


 ナイの世界が開く。

 溢れ出る砂。みるみる零れる砂は、服の袖やら裾やらからぼろぼろと落ちていく。ナイの体が崩れていっていると思ってしまうほどに。

 しかし積もっていったさらさらと乾いているそれは、意識を失い倒れるアスカの受け皿となった。


「こんにちは・・・・・」


「ああ、こんにちは。・・・・ええっと元気?」


 ナイの心の世界で目の覚めたアスカはうつ伏せの状態で、座っているナイを滑稽な姿で見上げる形になる。

 親近感に似た心地良さがある。アスカが顔をつけていたそこは、砂漠のような砂の一面であった。

 この世界には太陽がないため、大した熱は感じなかった。

 かといって暗いというわけでもない。暖色で包まれている世界は、目の前が良く見える。

 依然うつ伏せのままのアスカが、頬の肉を押しつぶされたまま尖った唇で言う。


「お兄さん、君を助けに来たんだけど・・・どう助けられそう。」


「んーんぅ・・・・無理そう。へへっ。」


 年相応に笑う。


「ナイ君だっけ・・・・タリとは兄弟かなんか?」


「ええー全然、全然だよ。似てないでしょ、俺とタリ。だって顔も髪の何もかもが違うもん。それにあいつの方がかっこいいしね。」


「うーん、どっちもかっこいいけどなぁ。」


 姿勢のせいか、アスカの言動が緩い。


「まぁ俺には負けるけどね。」


 ナイは、撫でるように手悪さしていた短い指の砂を落とし、水色の髪をくるくると巻き付けいく。

 どうやらアスカのことはあまり刺さらなかったらしい。


「ねぇお兄さん。こっちの俺ね、なんか変なんだ。父、母がいなくなって、ずっとずっと悲しかった気がするのに、ここだと全然。なんでだろ・・・・なんかすごい落ち着いて話せちゃうんだよね。うん、だからさぁ・・・・・俺のことで苦労しなくていいよって、思っちゃう。」


「それは・・・・・・うーん。」


 しばらく言葉を咀嚼する。そして言う。


「ここがそういう場所だからだよ。多分だけどね。俺もいろんな人を見てきたけど、人の世界で会うと大抵穏やかなんだよね。」


「なんで?」


「さあなんででしょねぇ?」


 アスカがようやく姿勢を直し、ナイよりも大きいその手で砂をすくい上げる。

 しかしすぐにそれは零れ落ち、数粒が皺に残るだけとなる。


「見て・・・掌、キラキラしてる。」


「ほんとだ。へへっお兄さん・・・なんだか子供みたいだね。」


 アスカはもう一度、砂をすくい上げる。やはりそれを完全に掴み取ることはできない。

 ナイもつられたのか手を伸ばし始めた、と思ったがそれをやめ、また水色の髪で暇をつぶす。

 しかし潰しても潰しても暇は消えないし、アスカも動かない。


「・・・・って、どっかいっていいよ。」


 ナイが穏やかであることには変わりない。

 しかし


「どっか行ってよ。どうせ一人なんだから。お願い。」


 言動は、その声で湿っている。だからといっても涙は落ちない。

 ナイは枯れきっている。砂漠にある唯一の水色。それは少年の髪。周囲にオアシスを錯覚できるものは自分自身しかいなかった。

 ナイの口は動く。体育座りの彼は青空のない遠くの果てを見ている。遠くにはなにもない。


「ひとりぼっちだ。この世界に、俺は・・・・ひとりぼっちだ。」


 なにもない。なにも。


「・・・・そうかねぇ。・・・・・・・・・・遊園地は楽しかった?」


 アスカも同様に遠くを見ている。アスカにも手立てがないようだ。依然遠くには何もない。

 ナイの手が止まる。髪をいじる手が止まる。

 アスカが再び、砂を掻き持ち上げる。やはり掴めはしない。しかしその手元には煌めく結晶が残っている。 


「・・・・・・遊園地。はっははっ・・・・・・・・・・ううーん、ぜーんぜん。」


 ナイが首を振ると、瞳にかかる前髪がどかされる。

 なにもない。


「ねぇ・・・・タリとさ、もっかい遊園地・・・行けるかな?」


 アスカがナイの頭を両手でくしゃくしゃに搔きまわす。

 ナイもそれを受け入れている。

 足りないなら補い合えばいい。


ぐるんっぐるんっぱ


 世界がひっくり返ったのかアスカの意識は垂直に落ちていき、地の砂が雪のようにゆっくりと落ちていく。そしてアスカの視界は砂に埋もれていった。

 意識の戻ったアスカは周囲の確認をし、腰を立たせる。

 そしてヌーアインシャテンに向けて上着を脱ぐイエレナを制止する。


「今日は、任せとけ。」


 カチャリと眼鏡をはめなおし、ついにその抱えた魔法の書を開く。

 アスカになぞられたその筆跡が黄金の光りを放ち始める。

読んでいただきありがとうございます。

感想お待ちしています。

次話もお楽しみください。

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