筆跡‐ななつめ
取り残されたアキナとタリのいる小屋では、うるさく無音が響いていた。
「ねぇ・・・別にそんな部屋の隅にいかなくても何もしないわよ。私が化け物にでも見えてるわけ?」
ナイと別れたタリは、角に縮こまって座っていた。
「別に・・・・なんかあんたは怖い。普通に。」
「普通にって何よ。まぁ私の美貌に恐れおののくのも致し方がないわ。古今東西の風が私に向かってくるほどだからね。」
精一杯のユーモア。アキナの全力である。
しかしその言葉に鼻を使った笑いで返すタリ。アキナに距離を詰められる。
「タリくん。ターリくん。ふっふっふっ・・・・なにかなぁ、いまの笑い方は。」
「・・・・あんたやっぱり怖いよ。特に眼・・・・アスカとはちょっと違う。」
人一人分の距離を置いてアキナがタリの隣に座る。
「・・・・アスカの眼はどんな眼だった?」
「・・・・・・・・分かんないけど・・・・・波うってた。・・・・あんたのは、真っ直ぐだ。」
膝を抱えるように座っていたタリが、さらに足を体に引き寄せ、もっともっとコンパクトになる。
そんなタリにアキナがのぞき込んで言う。
「タリのは、寂しそう。・・・・・ねぇナイ君はさ、いつからああなったの?」
子供だけがいた小屋。
タリとナイについての話が始まる。
「ナイとは幼馴染、家も隣。だいぶ前、この街で殺人鬼が暴れてて、”親殺し”だって・・・・僕らはそれの被害者。最近は捕まったのか噂は聞かないけど・・・・・。ナイも俺もいなくなっちゃった・・・・親。へへっ・・・ひとりぼっちだ。」
膝を抱え込むタリは、つま先を強く掴む。
「ナイも喋んないし、急に眠らなくなっちゃうし。お父さんとお母さんみたいな肌の色になっちゃうし。」
アキナは、自分の口を呪う。なにかとっさの言葉、気の利いた言葉が出ればいいのに何もでない。ただ真剣に、真剣にそれについて考えることしかできなかった。
「そ、そういえばあなた達、遊園地にいってなかった?どう楽しかった?」
空気を変えるため新たな話題を提示する。しかし逆効果。
「全然。ナイが喋らなくなって、何かしてあげたかったけど・・・何をしたらいいのか分かんないから僕が楽しいと思うことを一緒にしにいったけど駄目だった。全然笑いもしなかったし、僕も楽しめなかったし。」
アキナの諦めてしまった口はなかなか開くこうとしない。
「アスカ達もいたの?遊園地。」
もとより平淡なタリの声色は、それが増していっている。より均され、淡泊に。
「楽しかった?」
「・・・・いまこの状況で答えずらいわよ。」
アキナも伸ばしていた足を折りたたみ、口元を膝に近づける。
「がきんちょ・・・ナイは戻ってくるわよ。だから安心しなさい。」
そう放った口を完全に膝につけ、タリの頭をやさしく撫でる。
”他人でも、支え合っていいと思うのよねぇ。”
膝で口を塞いでいたせいか、その言葉は空気には触れず、アキナの口の中にとどまる。
吹かされたバイクの騒音ももうない。
夜はひっそりと佇んでいる。
一方、アスカはナイの心の世界へと入り込もうとしていた。
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