筆跡‐みっつめ
「ふむ・・・入れさえすればこっちのもんじゃ。わしは例の通り、魔法の書の修復に取り掛かるから、おぬしらは好きに過ごしていてくれ。ざっと1、2週間ってところじゃ、好きなタイミングで顔を出してくれ。」
言い残したシュパースは、さっさと行ってしまったと思ったが、すぐに戻ってくる。
「すまんのぉ・・・力仕事があるのじゃ、イエレナもつれてっていいかのぉ。」
無言でグッドのハンドサインをつくろうとはするイエレナ。
その様子からアスカもすぐにそれを承諾する。
「イエレナもこんな感じですし、いいですよ。頼みます。」
イエレナを連れ、シュパースはずんずんといってしまった。
となると二人は暇になる。
ネオンのまばゆく空間ではどことなく気まずくなる。
「あっあーーー、アキナさん。どうします?とりあえず。」
「とりあえず・・・・・適当に回ってみない?」
喋れないとはいえ、普段は陰ながら佇んでいるイエレナ。しかしそれが今はいない。
真の意味で二人だけの空間。
なにか変だ。
「ねぇあれ見て、すごくない?宙に浮いてるわよ。それにあれ、建物と建物が管でつながってて、その中を何かが通ってるわよ。何だろあれ、人でも乗ってるのかしら?」
好奇心に駆られたアキナが次々に注意を移し、アスカへと語りかける。
「う、うん。そう・・・だね。」
今一つペースの掴めないアスカは、アキナに振り回されながら一日を過ごしていった。
次の日は、街一番のファッションブランドに行き、また次の日は、隠れた名店風のホットドック屋を食べ歩き、また次の日は地下街へと進み、支障のない程度にカジノを見て回った。
そして次に訪れたのは遊園地であった。
「ねえアスカ!次はあれに乗りましょ。」
「ちょっとハイペースすぎ、だしここのアトラクション激しすぎ・・・・」
興奮気味のアキナに手を引かれるアスカの顔はやつれ気味である。
ちらちらと周囲の家族連れの客が目に入り、すこし目を伏せるアスカ。対して周囲のカップルなどに目もくれず、興味のあるものだけを感じているアキナ。
二人は、メリーゴーランドの列に並ぶ。
「ねぇ、今乗ってる・・・・・・・・・ううんやっぱ何でもない。」
言葉を止めるアキナは、また彩のある瞳に戻る。
「ねえこれなら、休憩にもなるんじゃない?」
「まぁ確かに。」
段々と減っていく前方の人数。とうとうその順番が来る。
やつれた顔でありながらも、アキナが楽しそうな顔でいることはアスカにとってはうれしいことであった。自分の体調なんてどうだってよかった。
「結構遊んだわねぇ」
「うん。もうそろ日が落ち始める時間ではあるしね。そろそろ帰ろうか。」
周囲の客も減ってきていた中で、二人はアイス片手にベンチで休憩していた。
「最後にさ、あの観覧車乗らない?」
提案したのは、アキナ。これは変わらない。
徐々に上がっていく観覧車。そこから見えるのはミリテアの全体像。
ネオンに染まるミリテアの街、陽の光が入らないわけではないが紫のドームで覆われたこの世界は、いつだって夜みたいなものであった。
観覧車は、このテーマパークで唯一二人だけになれる空間である。
いままで騒がしかった周りに邪魔されることなく、しんとする空間で話すことができる。
しかし会話は弾まない。
疲労か、それとも単に話題が尽きたのか、二人の口は軽やかではない。
それに対面に座っているが別に目と目を合わせているわけでもない。すぐ後ろずつにある他の客のように、意を決した熱意を漏らしているわけでもない。
ただ自然にゆっくりと回る観覧車に身を任せている。
「綺麗だ。・・・・景色。」
「そうね。」
青空を見るとき、近くに来るほどその青は濃くなる。それと同じ。ネオンに光る街から届く光は、ピンクに薄まり、その観覧車を静かに染めていた。
「ねぇ見て後ろの・・・きっと恋人になるよ、これから。・・・・幸せそう。」
眼鏡ごしにそれを見るアスカが、話題を振る。
「私にも見えてるわよ。アスカの後ろだって、なぁんかいい雰囲気っぽいわよ。あっ・・・・・キスしてる・・・・・」
「・・・・」
上空ほど風が強いのか、観覧車が大きく揺れ、扉がドンドンと音をたて始める。いったいなにがこんなにも音をたてているのであろうか。
しかしそんな音も次第に収まっていく。どうやら地上が近づいてきているようだ。
開かれた扉からはアキナが先に降り、続いてアスカが降りる。
久しぶりに足をつけた地上では、なんだか体がふわついている感触を持たせた。
そんな中、降りてすぐアスカが躓き、転んでしまう。
アキナが手を差し伸べる。
アスカもそれを頼りに軽く立ち上がる。
「ありがと。」
「いいえ。」
一日が終わる。慣れない土地での一日が終わる。
また明日、変わらず二人は、どこかで時間を共にしていくのであろう。
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