筆跡‐ふたつめ
獣の襲来を終えたイエレナとアスカ、その経緯を話す。
プーべテートという病のこと。魔法の鍵を使うことでその患者を治していること。その際にはヌーアインシャテンつまりは影の化け物が出てくることがあるといくこと。そしてその旅の最中にアキナと出会ったこと。なによりたった1人の弟がその病であるということを。
「なるほどのぉ。つまりおぬしらは、人助けの人間ということじゃな。そしてアスカ…おぬしが魔法を欲する理由もなんとなくわかったわい。魔法の書を手に入れて、弟をどうにかしたいんじゃな。」
「……まぁそんなとこ。…大体は合ってるよ。けど魔法を欲しがる理由は…ちょっと違う。」
いまさら目を覚まそうとしているのか、毛布の中で身をうごめかしているアキナ。
それをじっと見るアスカの眼には迷いがある。
口を紡ぎ、イエレナの手を、イエレナの顔を見る。
血の垂れるその顔は、そばかすが隠れている。
「昔…まだこの病のことほとんど知らない時かな、イエレナにたいしてこの鍵が使われたことがある。まあ結果に関しては、今のイエレナを見てくれればって感じ・・・で、イエレナのヌーアインシャテンは、本当に大変だった。だから半分は諦めてるみたいなもんなんです。もちろん治したいですし、俺にどうにかする力が手に入ればいいとも思っています。ただ・・・・・うん、まあ理由は違うんです。」
「・・・・・まぁ魔法は漢のロマンだからのぉ・・・・・惹かれるのも分かるわい。ほれ、夜空の星も流れ落ちておるわ、早く寝よう。」
流れ落ちゆく星々は、夜空から姿を消していき、夜はさらに深まっていった。
働き者の蟻が、もう働いている。巣への穴にかかる朝日を遮るアスカの手をつつきながら、列を成している。
「んん・・・・・アキナ?」
寝ているアスカをのぞき込むアキナ。その綺麗な赤髪がアスカをくすぐったおかげか目を覚ます。
「おはよ。あんまり眠れなかった?」
「あれ、俺が最後か・・・・」
「おじいちゃんとイエレナが朝食のデザートを取りに行ってるわ。だからゆっくりしていていいわよ。」
にこっと笑い、サクランボがいいなとつぶやきながら、散らかる布団を畳み始めていく。
しばらくすると丈の長い服の裾を使って大量のブルーベリーを抱えたイエレナが、シュパースとともに帰ってきた。
アスカは、手渡されたそれを一粒口の中で転がす。
アキナはサクランボが良かったと駄々をこねているがしっかりブルーベリーを口に放り込む。
「三人とも、朝食を済ませたら、いよいよ行きますぞ。」
みるみるブルーベリーは減っていく。
大らかな様子のシュパースは、三人をみている。
「仲が良いのいいことじゃのぉ。」
ついに食べきられたブルーべリー。アスカとアキナ、イエレナはブルーベリーが残す抵抗を軽く拭い、口周り、指周りを綺麗にする。
出発の準備が整ったと判断したシュパースはついに、その重い腰をあげる。
ノーデンから離れるほど、山道は平坦になっていき、設備されていることが顕著になっていく。
灯りが増え、かなり歩きやすい。
そしてなにより目の前にあるであろう目的地、ミリテアの全貌が顔を出す。
平坦な地形にまばらな木々、国としての明確な区切りがないのか城壁等は見られない。しかし何やら国全体には紫色のオーラのようなドームが覆いかぶさっている。ただそのドーム状の外にも家やら人やらの姿はみえている。
「じいさん。俺たちはあの中に入るのか?」
「・・・・・おそらく今は少しぴりついておるからのぉ。なによりわしが駄目じゃから・・・そこですこし抜け道を使おうと思うのじゃ。ふぉっふぉっふぉっ老獪に任せておけぃ。」
そういったシュパースの後をついていき、国から若干離れた井戸にたどり着く。
迷うことなくシュパースは井戸の中に指を指したため、イエレナに抱えられながら、井戸へと入り込んでいった。
しばらく歩くと、水の無い空の地下は抜け道となり、一つの大きな空間に行きつく。上空からは光りが届いており、おそらく頭の上は野外なのであろう。
シュパースは、倒されていた梯子を立てかけ、先陣をきって登っていく。
「おぬしらも来て良いぞ。」
地上に出たシュパースがひょいと顔を出しながら言う。
アスカ達も順番に地上に戻っていく。
出口もスタート同様に井戸であったが異質なのは、その場所であった。
「ま、マジか・・・」
「・・・・きたのぉ。ようこそミリテアに。」
日陰に隠れたような井戸から見えるミリテア内部は、まるで世界が違うのではないかと思うほどの世界で、特異な明るさの包む街は、ネオンに照らされ、暗さと明るさが共存していた。
「世界って広いのね。」
あんぐりと口をひらっきっぱのアキナは、何をするでもなくひろがる景色に唖然としていた。
無数に飛ぶ車輪のないまま浮遊するバイク。耳に手をあてながら楽しそうに会話する一人一人の人間。人の何百倍にも大きい建造物。
軍事国家ミリテア。
圧倒的技術力による世界、まさに近未来はここにあった。
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