筆跡‐ひとつめ
魔法の書の本領を取り戻すためミリテアへと向かっていくアスカ達は、ノーデンの依頼の前に助けた老人と旅を共にするのであった。
「おぬしら、はてさてなぜに旅をしてるのじゃ?」
「旅ってゆうか、なんというか。いろいろ困ってる人を助けてるって感じかなぁ。」
えらいのぉと言いながら、髭をさわる老人。名はシュパースというらしい。
「シュパースさん、俺らの名前知ってるっけ?まぁ改めて言っとくか。」
アスカは、眼鏡の位置を直し、かしこまって言う。
「俺がアスカです。よろしくお願いします。でこっちのちっこいのがイエレナ、弟です。それでこちらが・・・」
「アキナです。よろしくね、おじいさん。」
普段よりも少しの高めのつくられた声は、アキナのその見た目に合っているが、アスカにはそうは映らない。
アスカは菩薩のように目を細め、塞いだ口は影の線をつくり、微笑むために横へと広がらせている。
そしてその顔は、アキナを捉える。
「・・・・なによ。」
「いーえー。なんでも。」
何かを察知したアキナが、アスカの耳に狙いを定める。
静かにアキナの背後に回り、やさしくアスカの耳たぶにそっと触れ、爪を立てる。
「アキナさん・・・・?・・・・ゴメンナサイ。ユルシテクダサイ。」
「・・・・私に免じてゆるしましょう。」
耳たぶを切り裂きかけたアキナの爪が緩んでいく。
「ふぉっふぉっふぉっ、退屈しなそうじゃわい。わしももう一度自己紹介しとくかのぉ。わしはシュパース、昔は魔法の研究をしとったものじゃ、よろしくのぅ。ミリテアへの道のりはわしに任せてくれ。」
互いの開示を終えた一行は、とどまることなく軍事国家ミリテアへと進んでいった。
「ふむ・・・・このまま進めば、明日にはつきそうじゃな。・・・・今日はこの辺にして、夜を超えるかのう。今日はゆっくり休んでくれ。」
「はーい。」
翌日に備え、皆が眠りにつこうとしたとき、周囲の草むらが音をたて始める。
一度、二度三度とそれの音の感覚が短くなり始める。そしてなにより、それはアスカ達に近づいてきていた。
ついに姿を現すナニか、草むらから鹿のような獣が飛び出す。
しかしそれは確かな鹿ではない。
光沢のない虹色の毛皮は、白の体表から生え、野性味あふれる汚らしさを持っている。四肢は湾曲し、大きな口からは、ぼたぼたと涎を溢している。
「なんだ・・・・あれ。」
シュパースの前に立ち、片手を広げ、守りの体勢をとるアスカ。
戸惑うアスカだったが、アキナを包んでいた毛布ごとアキナを引っ張り寄せる。
異質な獣はその異様なうねりのある角を叩きつけ、こちらへと向かってくるが、それはすぐに静止させられる。
イエレナだ。不思議な獣の鼻先を覆うように手を出し、それの勢いを殺す。
月夜に照らされながら、きらきらと金髪を揺れさせている。羽織る布切れも帽子も放り投げたイエレナの肌は相も変わらずその白さが健在であった。
「ガアアアアァァァッ!!」
雄たけびをあげる獣は、対峙するイエレナに構うことなくもう一度駆けだそうする。
地を蹴り、空を蹴り、それはもがき、悶える。
すると骨の折れる音とともに、その獣は体を逆方向に折り曲げ、後ろ足でイエレナを蹴り下ろす。
「イエレナ!」
思わずアスカは叫び、弟の元へと走り出しそうになる。しかし引き寄せたまま離していなかったアキナを包んでいる毛布が重みとなる。
がくんと首に衝撃が走ったイエレナは、後ずさりをするとともに、獣を睨む。
脳天から垂れる血はそのまま、イエレナは大きく瞳を開き、獣の折れ曲がった背中めがけて拳を突き刺す。
すると獣の体はたやすく引き裂かれ、二分する。
獣が自らの骨を犠牲に一撃を入れたせいか、イエレナの拳には大した硬さはこなかった。
獣はピクリとも動かない。倒したようだ。
血を拭き取らぬまま、帽子を被ろうとするイエレナをアスカが止める。
「おぬしら・・・・隠してるつもりはないんじゃろうが、これは・・・・・いったいなんだかわしには分からぬ。アスカよ、イエレナ君は一体何なのだ・・・・教えてはくれぬか。」
夜空で光る満月のような髪をもつ二人の兄弟。
アスカも特段隠していたつもりはなかったが、話す決心をする。
この日の夜というのは、梅雨の訪れかじんわりとそしてしんみりとしていたと言っていい。
そしてアスカは、自らについて話していくのだった。
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