ぼんやりさん‐じゅっこめ‐
母の胸へと飛び込んだカルモは、泣きじゃくるでもなく何かを喋るでもなく、ただただ母とハグをしている。
カルラの背中に回されたカルモの腕は、強く強く彼女を引き寄せる。
事態に困惑するカルモは、息子を包み込むようにその腕を彼の背中へ回し、ゆっくりと引き寄せていった。
開けられたままの玄関からは、暖かく陽の光が舞い込んできている。
そこから伸びる光の線は、カルモの背中に捧げられ、その背中がぬくんでいく。なにより彼の体の全体は十分に火照っていった。
「・・・・・・・」
カルラは、息子にかける言葉が見つからないのか彼を引き寄せる力が増していくばかりで何も発しなかった。
「ただいま。」
「おかえりなさい・・・カルモ」
母との抱擁。カルモは満たされていっているのだろう、きっと。同世代の異性がいたとしてもそれを気に留めないほどに。
「カルモ、戻ったのね。」
「うん。てか来てたんだ。こっちに。」
「あなたたちが朝さぁ私を置いてったからよ。ここに来るしかなかったのよ。」
「ふーん。」
そっけない返事のアスカは、アキナに小突かれてしまう。
カルモとカルラ、その親子を収める二つの瞳は、羨むようなものであるが、そこに悲観の色はなかった。
「帰るか。」
アスカはそう言うと静かに扉を閉め、背を向ける。
しかしアスカを呼び止める声が届く。
カルモの父、オルモが普段よりもくるりとうねる髪でそこにいる。
「アスカさん。ちょっとまって・・・はぁはぁ・・・・ちょっと、ごほっげほっ。ぐすっ・・・忘れてます。これ。」
そんなはずないという顔をするアスカは、オルモに手渡された袋を開く。
その袋の中には、なかなかの量の金銭が入れられていた。
「いや、あの・・・うーん。こちらも依頼の段階で報酬は要求してないので、その・・・」
「もらってください。なんの気持ちですから、ただの。」
渋るアスカの横っ腹には、アキナの指が刺さっていたがオルモには気づかれていない。
耳打ちするアキナに屈っしたのか、アキナはお礼を丁寧に述べ、それを懐にしまう。
「ありがたくいただきます。オルモさん。では・・・失礼します。」
「ちょっと!・・・あの一つ聞いてもいいですか。プーベーテート・・・・あの病気、再発したりするかい?」
「さあ、分かりません。俺にも。ただ、今のカルモはもう喋れますから、いっぱい話してください。・・・話すというより対話をしてください。俺はそう思い、ます。多分・・・・。」
軽く会釈するアスカとそれにつられてアキナ、オルモと会釈が続いていく。
家へと帰っていくオルモ、何かの声が聞こえたのか嬉しそうな顔で走り出す。
きっと聞こえてきたのは、あの家でだれよりも幼い声で叫ばれた息子の名前にちがいない。
夢の王国トラオム。皆が夢を追うことができる自由の国。あるものは夢を追い科学者となり、あるものは自己の優秀さのまま進んだことで科学者となる。そしてあるものは夢のない自分への未来、自由すぎる未来に向けたぼんやりとした何かを心に持ち続けていた。
それがどうであれ、なにであれ、じっとじっとこの世界が明るくなるよう、生き続けなければならない。
太陽が今日のこの世界を、ぼんやりと照らしてくれてるように。
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