ぼんやりさん‐ここのつめ
ぼんやりと太陽が暖めた世界は、春の陽気さを持ってはいた。
「・・・・?・・・・」
目を覚ましたアスカ。周囲に目を配っても、奴がいない。ヌーアインシャテンがいない。
この状況にイエレナも困惑するしかなかったが、カルモに異変が起きる。
白かった肌は赤みを取り戻し、生気が見え始めたカルモの瞳から、大粒の黒い涙が落ち始める。
橋に染み込まないその粒は、次第に集まり一つの球となり、丸々としていく。その大きさを増していくそれは、宙にぷかりと浮かび上がり、次第に手足や、頭、そして人間の赤子のようになっていく。
そのヌーアインシャテンから垂れるようにして、一本の影がカルモに近づいていく。
まるでへその緒であるようなそれがカルモにつながろうとする。
しかしその寸前でイエレナがヌーアインシャテンに接近し、優しく指でデコピンのようにはじく。
すると形を成していたそれは、再びただの黒い球となり、太陽にぼんやりと焼かれ始めた。
そうするとそれは風船のように弾け、鋭い棘となりながら、イエレナに襲い掛かる。
「イエレナ!!」
叫ぶアスカだったが、その不安も無駄であったのか、イエレナは、両の掌を使い、頭を隠す形で防御の姿勢をとっていた。
手を下げるイエレナ。なんてこともなく立っている。
「だいじょぶか?イエレナ・・・・。」
アスカがイエレナへ駆け寄ろうとした時、後ろ声が聞こえる。
「ごめん。・・・・ごめん。ごめんなさい。」
カルモから流れる涙はもう黒くはなかった。しかしそこにある涙はどんなものよりもドス黒くアスカには映る。
「・・・・謝るな。謝んなくていいからっ。」
大きく頭を振りながら、カルモに言う。いったい頭から振り払ったのほなんであるのか。それはアスカにしか分からない。
「ああ、駄目だ。やっぱり僕は。死にたい気持ちが消えやしないや。はぁ・・・ははっは・・・・」
カルモは美少年だ。きっとそこらのものと比較にならないほど。そんな顔でさえ醜くなることはある。
両手で顔を覆いながら、むせび泣くカルモが、首をだらりとさせながらうつむく。足の力が抜けきったのか、座り込む。
アスカは、見下ろす形でカルモを見る。
カルモの言葉はいまだ終わらない。
「今この橋が急に崩れて死んでしまわないかなぁ。ああぁ・・・・・分かんないや何も。自分が何をしたらいいのか。理性のある今じゃ、死を選ぶこともできない。教えてよ、僕の正解を。だれか頂戴・・・・安心を・・・確かな未来を。決まりきったレールをさ。・・・父さん母さん・・・自由に生きてなんて言わないでよ。もっと、もっと教えてよ・・・・正解を。」
膝をついているカルモ。心の世界ほどの落ち着きはその言動にはない。
アスカは、アスカが手を差し出す。
カルモはしばらく気づかない。アスカが自分を立たせるための手を出していることに。
「僕のせいで何かが変わるのが嫌なんだ。世界は僕中心じゃないのに、周りが僕のために変わろうとして、ひどいよな。ああ、嫌いだ自分が。嫌い・・・・。うぐっ・・・っぷ・・・・僕は父さんや母さんみたいには生きてけない、僕には、こんな僕には・・・・夢がないから。」
カルモは顔をあげ、やっと自分に向けられたそれに気づく。
丸々とした目がそれをどう捉えたのか。それは行動に表れているのかもしれない。
アスカの手に重なるように置かれたカルモの手。
だがアスカは凝り固まったかのようにその手を動かせない錯覚を持った。
それでも遠くで光る太陽が目に刺さることで、自分の体が自分のものであると思い出し、カルモを立たせるため、力強く、そして思いきりその手を引く。
そうして彼を立ち上がらせると、カルモは少しばかりアスカの胸に寄りかかる体制になる。
「ごめん・・・・あぁ・・・・・。ははっなんだ・・・・そんなことがしたいのか。」
「?」
はっとしたような声で喋るカルモだったが、その真意はアスカには分からなかった。
「ねえアスカ・・・家に・・・・帰りたい。」
その言葉によって三人は、カルモは家に帰っていった。
扉を前にした三人。垂れさがったベルは、今は使われる素振りもなかった。
カルモは、衝動のまま扉を開き、駆けだしている。
「母さん!!」
外からの風に紛れながら、カルモは母の下へ飛んでいく。
走り出した時にはためいたカルモの白髪は母の胸の内に収まるとともに、ふわりと戻っていった。
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