ぼんやりさん‐やっつめ
神妙な顔のカルモが口を開く。
「アスカ君はさ、死にたいと思ったことがある?生きる理由がないなと思ったことはある?僕はさ、考えちゃうんだ。僕の人生なんて終わってもいいなって。」
「ふーん・・・。」
アスカは、鼻を鳴らしたような相槌をつくだけ。
カルモが続ける。
「なんかさ不安なんだよね。ずっと。胸のあたりに何かが詰まって息苦しい感じ。夢なんてないし、熱中できることもない。だからなのかさ何をしても不安なんだ。どれだけ勉強しても、どれだけ友達と息抜きしても、どれだけ前向きに生きようとしても。残ってるんだ。胸の不快感が。」
影が揺れ動く。
「だったらさ死んでも良いんじゃないかなって。死ぬ理由はないけど生きる理由もない。もう終わりにしようよ。人生なんて。」
「不思議なんだよね。周りの人間が、人生百年なんて言ってるけど、たった数十年生きただけでこんななんだ。あと何十年もまともなまま生きれる自信ないよ。」
液体のような影のなかでは、液体特有の音が響いている。甲高く響き揺れる水分の音は小さな鈴が幼くもその音を鳴らすようなものであった。
ぷかりと浮かぶアスカは、自分が元居た影の外。上をじっと、じっと見ている。
「俺は、カルモがもがいてるからこの影のなかの君と対峙している。君の両親が助けを求めたから君とこうして会っている。まぁなんだ。君が死ぬ選択肢を選ぶかどうかは、君次第。 死にたきゃ死ねばいい。でもさ、いやこんなこと君に言うのは酷かもしれないけど、きっと人が死ぬってことは、誰かの死を引き起こすことにもなるよ。・・・それが自死から始まるならなおさら。」
アスカの口は閉ざされない。
「今いったことは、君を救う言葉じゃない。俺が言いたいことを言っただけ。なにしろ俺がここにいて、イエレナが外にいるんだ。もう君は、元に戻れるも同然。プーベテートの病はもうないも同然。あとは現実の世界をこの目でちゃんと見るだけだよ。それに俺にだってあるよ、心の中にぼんやりとしたなにかなんて。」
「・・・・一緒・・・。あるんだアスカも、なにかが。・・・・・ねえアスカ・・・・いやなんでもないや。」
心なしか影が薄まっていく。
カルモの口から、影が漏れ出ていく。いやこれが影かどうかは分からない。まわりにある影に染まっているだけなのかその色は次々に薄まっていっている。
h光の入り込む余地のないカルモの世界。暗く、深くも狭い、。カルモから漏れ出る何かは液体となり、この世界を満たしていく。
影の立ち込めるこの世界は徐々に、徐々に薄まる。
「ねえこの治療?はさ、なにか僕を立ち直らせてくれてるの?」
「うーんさあ、どうだろう。」
はぐらかすアスカは笑ってみせる。カルモの表情のついた顔はなによりも輝いている。たとえそれが微かな微笑みであったとしても。
きっとカルモの世界が暗いのは、カルモが輝きすぎるほどの存在であるせいなのであろう。
世界が切り替わる。影の海に沈んでいた二人は、一瞬大きな浮遊感に襲われる。
雀がなき、川のせせらぐ音色だけが流れる。
そんな世界で朝焼けに染まる橋が二人に与えたのは、乾いた木の感触。どことなくさらついたその心地の良さであった。
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