ぼんやりさん‐ななつめ
暗く・・・深く・・・狭い。
アスカは目を覚ますとともに、自分がカルモの心の中、カルモの世界にいることに気づく。
「何も見えないな。」
影の立ち込めるその世界では、カルモの姿すら捉えることはできなかった。
アスカは、己の手を前へ出し、ゆっくりとゆっくりとカルモを探すため歩き始めた。
この世界では、時間的概念はない。しかしアスカには、多少のいらだちが生まれ始める。
「いったいどこにいるんだ。」
頭を悩ませるアスカは思わず天を仰ぐ。
「上にもいないか。・・・・?・・・・。カルモ?」
アスカの周囲で、水が落ちる音がする。
ポチャポチャン・・・・ポタポタ・・・・ピチャピチャッ。
カルモの名を呼んでも応答はない。アスカは再び歩こうとしたとき、ようやくカルモの存在をみとめる。
カルモは足元。影の立ち込めるこの世界の足場で、カルモは静かにもがきながら、その内で溺れていた。
アスカは、膝をつき、影の中へ手を潜り込ませ、カルモの手を引く。かと思われたが、アスカの手は、カルモの手をすり抜け、体勢を崩す。
トプンッ。
アスカは頭から落ちるような形で、カルモがもがく影の中へと入り込んでいった。
ここはカルモの世界、いわが精神世界である。酸素なんてものの概念はない。空気という概念すらも。それが意味することはただ一つ。影の中といえど、それはただの空間でしかない。
一瞬の焦りはあったものの、当然アスカにとってその影の中はいたって問題なかった。
「カルモ。カルモ!!落ち着いて、深呼吸!!。大丈夫。ゆっくりゆっくり。・・・・・そう上手。」
徐々に落ち着き始めたカルモはばたつかせていた手足をぷかりと影の中で浮かばせたかと思えば、途端にせき込み始める。
荒い息遣いとともに口から黒の液体が吐き出されていく。
すべての影を吐き出したのかカルモは、落ち着きを取り戻し、アスカと正対する。
「・・・・ええと、アスカ君?だよね。初めまして、でいいのかな。」
「そうかな。うん、そうだね初めまして。カルモ。」
二週間ほどの期間ともに過ごすことで、カルモの美少年度合いにアスカも慣れてきていたが、そこに表情がつくことでアスカは思わず目を奪われる。
オルモに似たクセのある髪は闇の中で白く煌めき、そしてカルラに似た丸々とした穏やかな目は純にアスカを見つめていた。
しかしそんなカルモの瞳は、申し訳なさに染められていく。
「アスカ君。わざわざ僕に”ナニ”かをしてくれてさ、きっと僕を救うために来てくれたんだろうけどさ。ごめん。僕はこのままでいたいんだ。」
その言葉は、嘘であれ本当であれ、確かにアスカに届いた。
「そう。それは残念だ。どうせなんだ。すこし話そうよ。カルモ。」
アスカはそう言うと、体勢を崩し、宙ぶらりと影の中でぷかぷかと揺られ始めた。
「カルモ。俺はさ、弱いんだ。闘う術も力もない。ただ父さんが残したこの鍵、プーベテートを直す。それだけなんだ。俺は何もしていない。あるとすれば君らみたいに疾患者の求める言葉を繰り返すだけ。相手が寄り掛かってもいいと相手にそう思わせるだけ。・・・・・なあそれって健全なのか。」
カルモとの話題作り、カルモに返報性を与えるために紡いだ言葉。ただそれだけでしかない。だがしかし自分で思っていたよりも言葉がすらすらと出てきためアスカ自身も驚く。
「さあ、分からないなぁ。ははっアスカ君、僕になにか話させるためにその話してるでしょ。いいよ。僕も話すよ。あんたに。」
「お見通しかぁ。まぁでも、うん。かかってこい。」
ぷかぷかとカルモの周りをまわるアスカが、カルモを見つめていく。
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