ぼんやりさん‐むっつめ
治療の日。昨日の宣言通りアスカはカルモの元へと向かおうとするのであった。
寝ぼけた朝、今だけ目覚めたての太陽は、世界に温かさを与えてはいない。
冬らしい寒さが顔を出すほどである。
「アキナ、行けそっ?」
声をかけられたアキナは、毛布にくるまれながら、子供にあまりに強く抱きかかえられたぬいぐるみのように、抗えないまま、身ひとつも動かさなかった。
「うーん。いけたらぁ・・・いくよぉ。」
身支度を整えたアスカとイエレナにとってはあまりにも腑抜けた声でもにょもにょと話している。
「まぁ行ってくるから。ねむねむアキナさんはゆっくり寝ててください。」
そう言い残し、バタンと扉を閉じる。
カルモの家へと向かう途中、アスカは陽が昇り始めた方向におそらくカルモが通っていたであろう学校を見つける。
以前カルモの父オルモから聞いた話だ。なんてことはないは普通の学校らしい。科学者の養成するでも、軍事を学ぶわけでも、スペシャリストを作り出すでもない、いたって真面目で平凡で・・・とアスカは聞かされていた。
なんでもカルモは、なかなか熱中できることがないらしく、見かねた両親が、いろんな視点を・・・なんてことでそこの学校を進めたらしい。
過程はどうあれ、カルモはプーベテートにかかり、それを直すためにアスカはこの街に来たのだ。ただやるだけなのである。この懐にある黄金の鍵で、彼の世界を開くことを。
コンコンっ。
こんな朝方に戸をたたかれるのはおそらくこの家だけである。
「アスカさん・・・・今日はよろしくお願いします。」
カルラの手は小気味よく揺れていた。これは寒さのせいだけではないだろう。
科学を優先させてきた彼らにとって、なんの確証もないアスカ達を信じ切れてはいなかった。しかしそれでも数週間を彼らにささげてきた。
きっときっとと信じ、その思いのまま、アスカの手を強く握る。
「・・・・・」
握られた手が緩んでから、アスカは半歩下がり、街を出るよう歩いていく。
カルモの手をイエレナが握り、イエレナが先導していく。
着々と歩いていく中で、初めてここに来た時のように、橋を渡り、流れる川を越えようとした。
グイっ
橋を渡り切る寸前、アスカの服の裾が掴まれる。
後ろを振り返ざるおえなかったアスカは、視線を下げ、イエレナを見る。
イエレナの手。片方は兄の裾を掴み、もう片方の手は暇をしている状態になっていた。
大きく目を開くことになったアスカは、下げていた視線を瞬時に戻し、首をぐるりと回す。
そんなアスカの探知は一度360°に達する。もう一度周囲に目を向ける。
「カルモ!!待って!!」
体がくの字に曲がるカルモは橋の手すりに身を任せていた。頭から突っ込む形で、足をばたばたと動かしながら、川に落ちそうになっていた。いや正しくは・・・。
アスカはすぐにカルモのもとに駆け寄り、腰に腕を巻き付けるようにしてカルモを引きずり戻す。
「カルモ。はぁはぁ・・・・・。カルモ。」
カルモの目に、滴がつくられている。川の音に紛れ込むかのように、たくさんの涙が橋へと流れついていった。
アスカが頬を伝う冷汗を拭い、懐から鍵を取り出す。
ぼんやりと太陽に輝きを与えられるその鍵は金の光沢のままアスカの手の内に収まる。
「イエレナ。やるぞもう。ここでだ。・・・・アーフ・シュリーセント。」
アスカは、その言葉を唱えながらカルモの背中に鍵を差し込む。
ガチッガチチッ
アスカがその鍵を回し、カルモの鍵を開く。
アスカは、喉に憂鬱を詰め込んだような感触に襲われながら気を失っていった。
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