ぼんやりさん‐いつつめ
カルモの家を出た三人。アスカの歩みには迷いはなかった。
「ねえ、失礼かもしれないけどさ、カルラさんの家に泊めさせてもらった方が良かったんじゃない。だってお金ないんでしょ。」
「問題ない。なぜなら俺は旅人連盟会の役員だからね。これによって指定された国、街じゃ宿がタダだ。当然この街は、その対象地域だ。」
きりりと眉をつくり決め台詞のように格好つけるアスカを冷ややかな目で見るアキナが、話題を移す。
「そういえば、私の時は一日、ううん、ほんのすぐに治療を始めたけど、今回はそうじゃないのね。なんか理由はあるの?」
「いや、特に決まってないけど。強いて言うなら気分としか言いようがないなぁ。俺の性格がそうゆうタイプなのかも。」
「ふぅーん。」
なんてことのない会話をこなしていく二人。イエレナもそれをじんわりと耳になじませている。
ゴン!!
そんな緩んだ夜の街に、いきなり慌てふためく音が鳴る。
マントに手をかけていたイエレナだったが、その必要はなく、自分の兄が盛大に転んだだけであった。
勢いよく倒れたアスカは、顔から地面につき、情けない声で嘆いていた。
「あなた、イエレナと違って、なんか、なよなよしいわね。」
「うるさいなぁ・・・俺は武闘派じゃないの。癒し系なの。」
立ち上がったアスカは、埃のついた手で、服をはたき、砂を落としていく。
その弾みに、服の至る所へ血が付いていくが、そこでアスカは自分の手を擦りむいていることを把握する。
再び情けのない嘆きをあげるアスカは月にぼんやりと見られていた。
翌朝、3人はカルモの家へと向かい、一日を共にしていく。
しかしこれと言ったことは起きず、この街に滞在する期間は気分次第だと言ったアスカ達は、1週間ほどさらにカルモに寄り添った。
そして2週間が経とうとした時、アスカたち3人は、すっかり馴染んだキルラの無邪気な計らいで、食事に誘われたのであった。
カルモの家につくと、ちょうどカルラやオルモそしてキルラが、調理をしている最中であった。
「カルモは?上の部屋ですか?」
せわしなく動いている二人の大人は、こくりとだけ頷く。
アキナが天井を望みながら一つ提案をする。
「ねえカルモも呼ばない?一緒に作れなくてもさ・・・ここにいるだけでもいいから。」
「・・・・・そうね。そうよね、呼びましょ。アスカさん頼めるかしら。」
その言葉を背負ったアスカは、カルモの部屋へと進んでいく。
階段のきしむ音。きしきしとなる音は、きっと家の骨組みを伝い振動していただろう。
「カルモ、今・・・君の家族が、料理を作っててさ、弟・・・キルラもオルモさんとかのお手伝いしてる。君もさ、下にきて・・・僕らと一緒にいないか。」
プーベテートの彼は喋ることができない。当たり前に返事は返ってこない。
「入るよ。」
カルモと刻まれた扉。その文字のあたりでノックしてから、扉を開く。
窓の開かれたカルモの部屋。外からは陽気なぬくもりのある風が勢いよく舞い込んでいた。
日焼けしたカーテンがバサバサと音をたてながら、波打っている。
「カルモ、待ってるよ。」
部屋の中心で立っているカルモ。アスカを見ながらぼんやりとしていた。
アスカは、優しい笑みを見せつつ、カルモに背を向ける。
階段のきしむ音。重なるように、連なるように木造のそれは、音をたてる。
カツカツッ、ダンダンッと音を響かせながら、材料が切られていく。いつの間にかアキナも手伝い始めていたが三人の誰よりも不慣れな様子で、かなりの危なっかしさがあった。
指を切るのも時間の問題だなと思いながらアスカは、ははっと笑って見せる。
アキナはアスカを、カルラとオルモはカルモを、キルラは動きを止め自分の手を、それぞれが視線で刺す。
「ど、どうした。カルモ一緒にやるか?」
カルモが父のとなり、オルモの隣で、まな板上に置かれていた包丁を手に取る。
カルモはその握った包丁の刃をじっくりと見る。手の筋力が落ちているのか手首が返り、刃が彼の方に向く。
次第にカルモの手は、カタカタと震えるようになり、その瞳から涙が落ち始める。
ぼたっぼたたっと落ちていくカルモの涙。キルラが兄の頬を拭い頭を撫で始める。
誰も正攻法をしらないこの場は、沈黙に塗り替えられていった。
「・・・・・・明日、施術します。明日の早朝です。・・・だからよろしくお願いします。」
治療は明日。アスカの気が変わった、そう理解していい。
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