世界‐じゅうにこめ
歩き始めた三人、日も夕刻時になる前、アスカ達は一人の少年と遭遇する。
「クライン?」
「え、あの時の!!」
アスカは自分の体が浮かび上がるような高揚を持った感触を持つ。それはついさっきアキナと会えた時のものとも似ているし、初めてヌーアインシャテンをその目で捉えた時とも似ている。
そんな中でも、アスカは言葉を吐くことを恐れなかった。
「ど、どうして!!」
アスカは走り出し、クラインの肩を揺らす。
「ちょ、ちょっと、こ、怖い。笑うのか泣くのかどっちかにして。」
ぐらぐらと体を揺らされるクライン、噴き出していた汗がぽっぽっと体から離れていく。
「お、オレ、逃げてきたんですよ。なんか、騒動があって、しかも国王も殺されて、もう国がパニック状態。だから逃げてきた。オレ、逃げれたんですよ。」
アスカは、アキナを見る。しかしすぐにクラインに視線を戻す。
「お、俺、クラインにまた会いたかったんだ。いやクラインだけじゃない。俺が治した人に、子に、会いたかったんだ。それで、笑顔が見たかったんだ。だからありがとう。」
「ありがとうって、そんな。オレのほうがありがとうじゃない?だってプーベテート?のままだったら、今逃げれてないかもしれないし、感謝しかないです。オレ、あんたに元気にさせてもらったんですよ。感謝をするのはこっち、だから・・・ちょ、肩揺らさないで!?」
ガクンガクンと揺れるクライン、汗でぺったりと額に前髪がついている。
そしてアキナがぽつりと言葉を溢す。
「逃げる元気か・・・・・・・元気。」
「そうっす。オレ、いまめっちゃと元気っす。」
「元気ってゆうか、変だよ。」
アキナは冷静につこっむ。
「そうすかね。オレからしたら、国のためとか言って血気盛んになってる国のやつらのほうがどうかしてると思いますけどね。だって人を殺すんですよ?人を殺す元気があるほうが怖いでしょ。」
「人を殺す、元気ねぇ。」
「まぁ、オレに家族がいないってのもあるのかもしれないけど。」
クラインは傷の残る片目を抑えながら悲しげに言う。
分かりやすい感情はからっとした爽やかさえ与えてくる。
「で、あんたたちはどうするんですか?これから。・・・・・・・逃げてきた口でしょ?手ぶらだし、オレよりきたねえし。」
「ああ、俺たちはノーデンにいったん行こうかと思って。」
「ノーデン・・・・・・・・ノーデンか。あそこはやめといた方が良いと思いますよ。あそこミリテアの管轄みたいなもんだし、見つかるみたいなこともあるかもよ。」
「そう・・・なのか。」
ガクッと首を落とすアスカは、頭の中で考えを巡らせていく。
そしてふとした疑問が思い浮かぶ。
「な、なぁ、クラインはシュパースっていうじいさん知ってるか?」
クラインは一瞬いやっと言いながらも、それでも記憶を辿り始める。
「いやでも、聞いたことあるかも。たしか、国から排斥された人だったような気が。オレも子供だから・・・・昔の人なんて知らないけど、でもその名前、聞いたことあるな。」
そうしてクラインの口から記憶が紡がれていく。
アスカは耳にする。
シュパースが前ミリテアの統治者であったことを、依然は魔法大国であったミリテアで、突如魔法の危険性が唱えられるようになったことをアスカ達は知るのだった。
「じゃあオレもう行きますね。捕まっても嫌なんで。あの状況からしてオレなんかを捕えにはこないとおもいますけど、まぁ、三人も気を付けてくださいね。」
じゃっと言ってクラインはすぐさま走り出していった。
「なんか颯爽としてたわね。」
「んね、まぁ俺たちも行こうか。」
「どこに?」
アスカは黙り、ばっと走り出す。
そして叫ぶ。二回ほど叫ぶ。
「イエレナ!アキナを抱えてついてきて!」
イエレナは軽々とアキナを抱えすぐにアスカに追いつく。
「クライン!ちょっと待って!」
走り続けるクラインを追いかける。そして追いついても走ることをやめない。
「お、どうしたんすか?一緒に逃げる感じですか?」
「迷いないから当てがあるんだろうと思って、一か八かで追いかけてみた。」
「そうっすね。一応思いついてる。ミリテアが捨てた国があるんで、そこならと思って。割と近いし、気候も悪くない。じゃ、一緒に行きますか。ちなみに寝ずに走ろうと思ってますから。頑張って。」
クラインは走りながらぐっと両手を握りこみ、アスカ達を鼓舞するような真似をする。
アスカもそれに応えるようにニカっと笑い、汗の滴る瞼を開いては閉じてを繰り返す。
眼球に触れる汗が増えていく。
虫の声が聞こえるようになり、寝息のような風も吹いてくる。
汗は風に乾かされながらも、だらだらと溢れ出てくる。
べたつき、肌に残る。
流れ落ち、潤していく。
月の光を感じながら、がむしゃらに走っていく。
人の瞳の白さが夜の暗さに溶け込めずにいる。
いくつもの瞳がせわしなく進みながら、夜を抜けていく。
そして日の出が見え始めた時、三人はようやくその体を休めるのだった。




