世界‐じゅういっこめ
突如として現れたハッセン、アスカの意識はアキナではなくそれに向かう。
「何の用だよ。」
「ううん。別に。感謝の言葉はないのかなって。」
「感謝?」
「イエレナを助けるの手伝ったんだけど。僕にも感謝してもらってもよくない?」
仕方がなくアスカは口を動かす。
「・・・・・・・・ありがとう。でもなんで・・・・・・」
「教える理由、ある?」
ハッセンの表情は満足そうである。
「僕、ほかにもやり残したことあるんだ。だからもういくねぇ~。」
「お前・・・・・・なんで、なんでなんだよ。」
「だから・・・・・教える理由ある?・・・・・それと僕はハッセンだから。名前覚えてよね。」
ハッセンの手にナイフが持たれる。
そうしてすっと姿を消し、また景色だけが平がっていく。
「ハッセン・・・・・このままほっておいていいの?多分、あいつミリテアに戻るよ。」
「・・・・・・・・分からない。このままで・・・・・このままが大丈夫なのか、俺も分からない。」
「あいつ、このままあの国の・・・・・お偉いさんを殺しにいくとか言ってた。でも・・・・私、止めようと思わなかった。」
アスカはひとり、地面に伏して嘆く。
「なんで、なんでだ?」
「私が捕まってるとき、あいつが来た時があったんだけど・・・・・あいつあんなに冷たい顔するんだって思った。それで、・・・・・・監視の、その・・・・・・ミリテアの人を私の目の前で殺したんだけど、そうしたらいつもの顔してた。子供みたいで、意地悪そうで、馬鹿そうで、そんな顔してた。」
「・・・・・・・・・・・・・助けられた?」
アキナは一瞬黙り、「いや」と否定してみせる。
その返答にアスカはまた頭を悩ませる。
「なんか・・・・・疲れたな。」
「そうね。私も・・・・・私もなんだか少し・・・・・うん。」
二人してイエレナを見る。
ぼさぼさの髪に、皺と汚れの混じった衣服、そこには匂いも混じっていただろう。
ぼうっと、ぼうっとイエレナを、空を、広がり突き抜ける道を、二人は見る。
いつのまにか腰は砕け、アキナはぺたりと、アスカはぐったりと、そこで座り込みはじめる。
「なぁ、アキナ・・・・・・ハッセンのあの魔法・・・・・どうやって手に入れたと思う?」
「さぁ・・・・・・もらったか、奪ったか、それか作ったか、なんにせよあれがあれを持つのは、どうにも、解せないわね。」
「・・・・・・・次はどうしようか。どこで何をしよう。依頼も来てたかな。どうだろ。」
「どうって。どうにも・・・・・・何も始まらないわよね。今座ったままじゃ。でもここで眠ってしまいたいわね。」
イエレナもいい加減あきれて、二人の腕を掴み始める。
「ねぇ、見てアスカ。あそこの芝、気持ちよさそうじゃない?なんだか、体がそっちに引っ張られるちゃう。瞼も重いし、喉元は気持ち悪いし、まるで、まるで、重力が横からかかってるみたい。」
アスカはじっとアキナを見る。
「いや・・・・・・・立とう。まだ、時間も時間だし、歩こう。太陽が昇っているうちは歩こう。」
そうしてアスカは立ち上がり、頭のなかにおぼろげな地図を思い浮かべる。
「確か、ここらへんってあそこに近いよな。ノーデンでも寄ってみよう。おっさんもいるだろうし、そこで休もう。泊めてもらえるかな?」
「へへ、どうだろう・・・・オムライス食べたいわね。」
「ああ、いいね。あれもねよかったよね、うん。」
イエレナはぐいぐいとアキナとアスカを引っ張り続けている。
とっくに二人を立たせる力があるはずのイエレナもなんだか無力であった。
大地に根を張ったみたいに、二人の足が動かない。
「ベットも気持ちいだろうな。」
そこで会話が詰まる。
そんな空気を誤魔化す様にアキナは立ちあがる。
少し走り、ニっと笑いながらアスカ達に振り返る。勢い余った髪は靡き、顔が見え隠れする。アキナの目は笑顔でつぶれ、瞳の色が見えなくなる。陽のひかりを跳ね返そうとする彼女の空気、それは時間を遅くさせる。
髪はいまだに靡き、きらきらと天気のいい今日が光る。
アキナは両手を背中で握りながら言う。
「さっ、いきましょ。」
「そうだね。行こう。」
アスカは首を回し、ぐっと目を見開きする。渇きのとれない瞳を気にすることなく、瞳を開き続けるをする。
そんな二人に、イエレナもついていく。
そうして荷物を持たない三人はミリテアを離れるのだった。




