世界‐じゅっこめ
熱さに囚われる二人の熱がイエレナの肌で冷やされていく。
引き寄せ、抱きしめる。
手繰り寄せ、離さない。
アスカの腕は、アキナとイエレナを抱える。
アキナもそれに応えるようにぎゅっとアスカの体に自らのすべてを埋め込ませる。
そしてイエレナも。
「ねぇ、離れないで、もう少し、このまま。」
しんとなるシュパース、腰を曲げ、座れそうなちょうどいい岩に腰を掛ける。
そして自分たちが来た井戸を眺めあげる。
陽の光、それは奇跡のように荘厳にアスカ達に降りかかっている。
「おぬしら、そろそろ行きますぞ。ひとまず・・・・・・この地下からも出るのは当たり前として、わしの家にくるのも得策でない。わしは、直ぐに逃げることを勧めるぞ。」
ようやくアスカは絡めていた腕を解き、自分たちのことについて考えていく。
「俺たちの荷物は?」
「とっくに捨てられてるじゃろうな。」
「・・・・・・じいさんの家は?」
「わしのところも駄目じゃ。何があるかわからんからの。それにわしもひとりに顔を見られたからのぅ、逃げる選択肢を考えているところじゃよ。」
「戦争は?」
シュパースはぐっと地上の喧騒に耳を傾ける。
「終わるじゃろうな。それもミリテアの負けで。きっとここから崩れるじゃろう。」
「戦争に行った人間は、どうなると思う?」
「死んでなければ戻ってくるじゃろう。いやどうかな、捕虜なんてことも・・・・・どうにも答えづらい所じゃ。」
「じゃあ・・・・ここ数か月で徴兵されたやつと会える可能性はあると思うか?」
「・・・・・・・・もう関わらなくていいんじゃないか。ミリテアから離れなさい。それが一番じゃ。自分のために生きなさい。他者のために何かをすることが自分のしたいことなんて言うな。自己の大成・・・・それが自分のためというものじゃ。アスカよ、貴様の顔、少し・・・・・・休みなさい。」
「俺は・・・・・・ただ話したい。治療をしたあの子と話したい。謝りたいとか、感謝されたいとかはない、彼らともう一度会いたいんだよ。」
「・・・・・・・世俗から離れなさい。そしてまたいつか・・・・どんなときかにミリテアに来ればいい。じっと考えてればいい。ぐっと考えてればいい。」
「・・・・・・・」
アスカはごくりと唾を飲みこむ。そうすると舌に残るクスリの感触を感じる。
「なぁ、じいさん。もう一つ聞いていいか?」
「ふむ。」
「あんた、ホントは、魔法に関するものいまだに持ってたんじゃないか?」
シュパースは懐から瓶を取り出し、じゃらじゃらと錠剤の入っているそれを振るう。
「・・・・・・・どっちなのじゃろうな。」
「俺、透明になる魔法を知っている。」
「ふむ・・・・・・そうか。」
「俺は、じいさんに飲まされたその錠剤でここまで逃げ切れた。そう、透明になって。」
「おぬしは・・・・・・いや何でもない。嘘をついてすまなかったな。おぬしの勘繰りは正解じゃよ。ただ、おぬしらへの態度が嘘になったのは、おぬしらが良い子だったから、喜んでいいのじゃ。」
「・・・・・・・まぁいい。別に怒りがあるわけじゃない。ただ、少し、ほんの少ししこりが残っただけだから。だから先に行きます。」
アスカは手元でくしゃくしゃの紙を見る。
それは、牢を壊した魔法の名が刻まれている。
魔法の書のほうのやつ忘れたなとか、そんなことを考えながら口を開く。
「また会いましょう。」
にこりと笑うシュパース、皺が増えたのだろう、よりチャーミングだ。
「気をつけるのじゃよ。ここから出れたとしても、何が潜んでいるか分からない。それと、おぬしに渡したその魔法、アスカ・・・・お前に預ける。正しく使ってくれよ?」
「うん。」
そうしてアスカ達は地下から這い出るために歩き始める。
だんだんと足早になり、きょろきょろと視線がまばらに撒かれる。
「だいじょぶ?」
「う、うん。」
「?」
「も、もう少しだったよな。」
「ええ、確か、あとほんのちょっともう一つの井戸の場所よ。」
口早なアスカ、それはその足をさらに加速させる。
歩けば歩くほど、陽は遠ざかる地下の空間。
道は狭まり、そこらにある鉱石がきらりとアスカ達の瞳を反射させる。
しかしアスカの歩みも、陽の光が見え始めたことでゆっくりなものとなり、ほっと胸を撫で下ろす。
見上げる。
ようやくの外、確かな陽の光を感じれることを願う。
「はぁ、ようやく外・・・・・・」
「ねっ意外と長く感じたわよね。前来たときは、なんだか探検してるみたいで楽しかったけどね。」
「ふふっ、確かに。」
地上に戻る。
アキナを先に行かせ、後からアスカ、そしてイエレナと続いていく。
先に地上に戻っていたアキナがアスカの手を取り、ぐいっと手繰り寄せる。
しかし思いのほか勢いを持ち、アスカはアキナに覆いかぶさるように地上に戻される。
燦燦と昇っている太陽を背中に、アキナを押し倒したかのようなになり、アキナに自分の影が掛かる。
咄嗟の出来事にすぐさまごめんと言おうとする。しかしその言葉が出るよりも早くアスカの体はドン!とアキナに押され、跳ね飛ばされる。
「アキナ?」
アスカは状況がつかめずにいた。しかし確かにその行動はとられた。
アスカの体にはアキナの両手の感触が残っている。
ただの感触ではない。明確な拒絶のある感触であった。
「・・・・ご、ごめん。そんなに?」
アキナは胸に手を当てている。ふるふると顔を横にふり、項垂れる前髪で顔が隠される。
「アキナ?俺・・・なんかケガさせちゃった・・・のか?」
ふるふるとアキナは顔を振り、ばっと顔をあげる。
「み、見て!太陽!いい天気。うん。いい天気!」
アキナはははっと笑うが、アスカにとってはそれどころではないし、ごまかせるものでもない。
アスカがなにかそれを深掘ろうと口を動かそうとした時、誰もいないはずの背中側から声を聞こえてくる。
「ああ~あ、女の子困らしてやんの。アスカのば~か。」
ばっと振り向く。そうするとイエレナも井戸から戻っている。
いや、そんなことではない。アスカの知りたいのはその声の正体である。
「ええ、ホントは気づいてるでしょ?何回目?これ。」
じわじわと足元が明らかになっていく。
蜃気楼に紛れていたかのように姿が忽然と現れる。
「ハッセンだよ。」
おどけたような男、赤子をあやす様に両手で顔をひけらかしながセンは再びら、ハッアスカの前に現れるのだった。




