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魔術的鍵師物語  作者: mono
第十

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111/119

世界‐やっつめ

 アクティは変化のあるアスカに気づき、すぐさま椅子に腰かけ、足を組む。履いているズボンの皺を整え、アスカを見下ろす。

 アスカが目を覚ましかけの状態にあることを確認し、ほっておいた本を手に取る。

 パラパラとめくるように読み、アスカの目覚めを待つ。

 数回滴が落ちる音がすると、ようやくアスカの瞼が開く。


「おはようございます。」


「・・・・・・本、全然読めてないじゃないか。」


 アスカは、湿った口を拭い、水漏れがある地下でその湿り気を嫌い続ける。


「まぁ、そうですね。意外と、早かった、と言えますね。」


「はっ、処理が遅いんですね。」


 アクティは、アスカの口元をみて、満足げに頷く。


「ええ、致し方ない。それよりもそんなところにいていいのですか?もう、来てますよ、ヌーアインシャテンが来てますよ。」


 アスカは、後ろを振り向き、グロースのそれが接近していることを把握し、横方向に転がり跳ぶ。

 白い唾を吐き、じっと見る。

 形を持たず、煙のように漂いながらも確かにアスカに害を与えようとしていた。

 事実、アスカの肩にはヌーアインシャテンの欠片がかすり、服が燃えるような症状を持ち始めている。


「ちっ!」


 アスカは肩の部分を引き千切り、ヌーアインシャテンを切り離す。


「アクティ、どうにかっ・・・・・・しろ!」


 グロースの影は、執拗にアスカを覆いつくそうと向かってくる。

 その間、アクティは呑気に錠剤を取り出し、それを噛み砕き、飲み込んでいる。


「おい!聞こえてんのかって!」


 叫ぶアスカ、そんなアスカの髪が浮かび上がる。

 アクティは、アスカに向かっていた影をその剣筋で歪ませる。

 放たれる突きは、数個の穴をつくり、ヌーアインシャテンを分離させていく。

 風圧が呼び起こされ、ヌーアインシャテンは粒のようになっていく。

 影は雨となり、地面に落ちていきそうになる。しかし刹那的にそれは、再び一本の剣で突かれる。

 粒となっては、離され、粒となっては、滴となり、それはどんどんと小さくなっていく。


「まじか。」


 霧散し、空気に溶けていく。蒸気となって空気に溶け込んでいくまで、それは小粒なものにされる。

 そうしてようやく、アクティは、レイピアを腰に差し、アスカを見下ろす。

 そして透明な唾を吐き、グロースに目を向ける。


「おかえりなさい。大事ないですか?」


「あっ・・・・・はい。大丈夫です。」


「では上に戻りますから、少々お待ちください。問題ないですね?」


 グロースはぺこりと頷き、大きな呼吸で、じっと目を瞑る。


「では、アスカさんも、お戻りになって。」


 アスカは、アクティの手がその剣に触れていることを確認し、抵抗することなく牢に戻る。

 そして、鍵が閉められる。


「グロースさん。お国のために戦えますね。彼のような自分勝手は許されませんから。いえ、許せませんから。」


 アスカはこちらに向けられるアクティの目に鼻息をすんと鳴らし、小ばかに笑う。


「ぜひ、この国のためには闘わせてください。すべては国王のために。」


 グロースはいままで瞑っていた瞳を開き、凛とした顔で言い放つ。


「あなたは・・・・・・そうですね。自分の足で戻ってください。問題ないですよね?」


 そうしてグロースは地下から姿を失くしていく。所有物の本を忘れて、この上へ、太陽のある世界へと戻っていくのだった。

 アスカは、魔法の鍵を懐に戻しながら、アクティに確かめる。


「その本・・・・・・いいのか?」


「どうなんでしょうかね。良いんじゃないですか?こんなもの。自分勝手な人物の本なんて、どうでもいいのでしょう。彼はもう素晴らしい信念を持ったようですから。」


 アスカは、座り込みながら、アクティに睨みを聞かせるとアクティは下卑た笑顔で返す。


「こんなことでお怒りですか。あなた、血の気が多いですねぇ。まぁいい。これはあなたにお似合いでしょう。差し上げますよ。」


 アクティが牢の中にそれを投げ入れる。

 風圧に開かれ、バンと音を立てながらそれは落ちる。

 アスカは慌てて拾うが、ページは折れ、濡れ、跡になってしまっている。


「・・・・・・・・・アスカさん。」


 アクティはアスカを手招きをする。当然アスカはそれに応えないつもりであった。しかし体は動く。

 格子の間から顔をほんの少しだし、キョトンとした顔でアクティを見上げる。

 アクティはニヤリと口角があがり、欲の紛れた目の形で、それを見る。

 ガン!とアスカの目元に衝撃が走る。

 頭蓋が揺れ、脳との余白ができていく。

 手で覆いながら、身をよじる。

 

「ばたばたばた、何を悶えてるんですか?そんなに痛かったですか?そんなに痛かったですか?」


 返事のないアスカ。


「そうですか、そうですか・・・・・そんなに、へぇ、そんなに。」


 アクティは、ぼたぼたと血の垂れる剣の柄を拭き取り、なおもにこやかに表情を保つ。


「まぁ、次の治療もきっと期間が空きますから、良かったですね。本の楽しみが伸びて、ではまた。」


 カツカツと足音が地下で響いていく。

 そしてその足音が消えると、アスカは抑えていた声をあげ、悶え続ける。

 徐々に腫れていく目。

 目を開けることもままならない。

 硬い、熱い、冷たい。

 痛い。


「・・・・・・はぁ、はぁはぁ・・・・・・・」


 アスカは本を開く、字を読むこともままならないほど痛みに襲われる。

 結局アスカは本を閉じ、壁に寄り掛かる。

 そしてアクティの顔と言葉を思い浮かべながら、痛みに構わず思いきり壁を拳で打つのだった。

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