世界‐やっつめ
アクティは変化のあるアスカに気づき、すぐさま椅子に腰かけ、足を組む。履いているズボンの皺を整え、アスカを見下ろす。
アスカが目を覚ましかけの状態にあることを確認し、ほっておいた本を手に取る。
パラパラとめくるように読み、アスカの目覚めを待つ。
数回滴が落ちる音がすると、ようやくアスカの瞼が開く。
「おはようございます。」
「・・・・・・本、全然読めてないじゃないか。」
アスカは、湿った口を拭い、水漏れがある地下でその湿り気を嫌い続ける。
「まぁ、そうですね。意外と、早かった、と言えますね。」
「はっ、処理が遅いんですね。」
アクティは、アスカの口元をみて、満足げに頷く。
「ええ、致し方ない。それよりもそんなところにいていいのですか?もう、来てますよ、ヌーアインシャテンが来てますよ。」
アスカは、後ろを振り向き、グロースのそれが接近していることを把握し、横方向に転がり跳ぶ。
白い唾を吐き、じっと見る。
形を持たず、煙のように漂いながらも確かにアスカに害を与えようとしていた。
事実、アスカの肩にはヌーアインシャテンの欠片がかすり、服が燃えるような症状を持ち始めている。
「ちっ!」
アスカは肩の部分を引き千切り、ヌーアインシャテンを切り離す。
「アクティ、どうにかっ・・・・・・しろ!」
グロースの影は、執拗にアスカを覆いつくそうと向かってくる。
その間、アクティは呑気に錠剤を取り出し、それを噛み砕き、飲み込んでいる。
「おい!聞こえてんのかって!」
叫ぶアスカ、そんなアスカの髪が浮かび上がる。
アクティは、アスカに向かっていた影をその剣筋で歪ませる。
放たれる突きは、数個の穴をつくり、ヌーアインシャテンを分離させていく。
風圧が呼び起こされ、ヌーアインシャテンは粒のようになっていく。
影は雨となり、地面に落ちていきそうになる。しかし刹那的にそれは、再び一本の剣で突かれる。
粒となっては、離され、粒となっては、滴となり、それはどんどんと小さくなっていく。
「まじか。」
霧散し、空気に溶けていく。蒸気となって空気に溶け込んでいくまで、それは小粒なものにされる。
そうしてようやく、アクティは、レイピアを腰に差し、アスカを見下ろす。
そして透明な唾を吐き、グロースに目を向ける。
「おかえりなさい。大事ないですか?」
「あっ・・・・・はい。大丈夫です。」
「では上に戻りますから、少々お待ちください。問題ないですね?」
グロースはぺこりと頷き、大きな呼吸で、じっと目を瞑る。
「では、アスカさんも、お戻りになって。」
アスカは、アクティの手がその剣に触れていることを確認し、抵抗することなく牢に戻る。
そして、鍵が閉められる。
「グロースさん。お国のために戦えますね。彼のような自分勝手は許されませんから。いえ、許せませんから。」
アスカはこちらに向けられるアクティの目に鼻息をすんと鳴らし、小ばかに笑う。
「ぜひ、この国のためには闘わせてください。すべては国王のために。」
グロースはいままで瞑っていた瞳を開き、凛とした顔で言い放つ。
「あなたは・・・・・・そうですね。自分の足で戻ってください。問題ないですよね?」
そうしてグロースは地下から姿を失くしていく。所有物の本を忘れて、この上へ、太陽のある世界へと戻っていくのだった。
アスカは、魔法の鍵を懐に戻しながら、アクティに確かめる。
「その本・・・・・・いいのか?」
「どうなんでしょうかね。良いんじゃないですか?こんなもの。自分勝手な人物の本なんて、どうでもいいのでしょう。彼はもう素晴らしい信念を持ったようですから。」
アスカは、座り込みながら、アクティに睨みを聞かせるとアクティは下卑た笑顔で返す。
「こんなことでお怒りですか。あなた、血の気が多いですねぇ。まぁいい。これはあなたにお似合いでしょう。差し上げますよ。」
アクティが牢の中にそれを投げ入れる。
風圧に開かれ、バンと音を立てながらそれは落ちる。
アスカは慌てて拾うが、ページは折れ、濡れ、跡になってしまっている。
「・・・・・・・・・アスカさん。」
アクティはアスカを手招きをする。当然アスカはそれに応えないつもりであった。しかし体は動く。
格子の間から顔をほんの少しだし、キョトンとした顔でアクティを見上げる。
アクティはニヤリと口角があがり、欲の紛れた目の形で、それを見る。
ガン!とアスカの目元に衝撃が走る。
頭蓋が揺れ、脳との余白ができていく。
手で覆いながら、身をよじる。
「ばたばたばた、何を悶えてるんですか?そんなに痛かったですか?そんなに痛かったですか?」
返事のないアスカ。
「そうですか、そうですか・・・・・そんなに、へぇ、そんなに。」
アクティは、ぼたぼたと血の垂れる剣の柄を拭き取り、なおもにこやかに表情を保つ。
「まぁ、次の治療もきっと期間が空きますから、良かったですね。本の楽しみが伸びて、ではまた。」
カツカツと足音が地下で響いていく。
そしてその足音が消えると、アスカは抑えていた声をあげ、悶え続ける。
徐々に腫れていく目。
目を開けることもままならない。
硬い、熱い、冷たい。
痛い。
「・・・・・・はぁ、はぁはぁ・・・・・・・」
アスカは本を開く、字を読むこともままならないほど痛みに襲われる。
結局アスカは本を閉じ、壁に寄り掛かる。
そしてアクティの顔と言葉を思い浮かべながら、痛みに構わず思いきり壁を拳で打つのだった。




