ママ‐じゅういっこめ
バン!!と勢いよく扉が開く。
アキナの父と母の視線がそちらに向けられる。そして釘付けになったと思うと、意識はすぐに耳に向かう。
「また会いに来てやるよ。バぁカ!」
自分たちの娘は泣きながら、笑いながら、また背中を見せる。そして走り、いなくなる。
「・・・・・・・・・」
父は黙り、不自然に震える手元をじっと見る。
母はそんな父を細める目でじっと眺める。
「あいつ・・・・・なんで泣いてたんだ?」
「さぁねぇ。なんででしょうねぇ。」
震える手から人差し指だけが静かに伸びていく。
そんな様子もただただ眺める。
「なんか手がぷるぷるだぁ。」
「そうね。」
父の足元には、湿った雑巾が落ちている。そしてその手も、湿っている。
「あいつ、泣いてた。泣いてたな。」
母は返事をやめる。
「あいつ、苦しいのか?」
「・・・・・・・」
「あいつは苦しんでいくのか?」
腕は前に出され、どこかに吸い込まれるように、指が腕が、声が、扉の方へと進んでいく。
「あいつは苦しんでたのか?」
風に押された扉は、家を閉ざす。
「ああ、ああああ、あああああ?、あっああ。はぁっ。はぁはぁ・・・・・・あああああ?・・・あっあっ・・・・ああああ。」
「俺は、俺は、なんて・・・・人間だ。」
「そんなことないよ。だいじょぶ、だいじょぶよ。今日は、早起きだったっものね。少し寝ましょう。疲れたでしょ。もう、寝ましょ。私も一緒に。」
カチャッ
締まり切っていなかった扉が完全にはまる音が家に響く。
そして、その音に反応した鳥が勢いよく羽ばたき、姿を空へと消していく。
翼を動かすことなく気流に乗り、飛んでいく。そうすると、直下にアキナの姿が見えてくるのだった。
「ふっはぁっ・・・・・はっはぁっ。」
アキナはアスカと離れた場所の目前で座り込み、ゆっくりと嗚咽の混じる息を均していく。
ふぅふぅと息が吐かれ、その数を消化していくほどに涙は引いていった。
そして目元を触る。
確かな涙の跡を感じながら、赤いだろうなとにやっと笑う。
泣いてるのに笑っている。そんなこともアキナには可笑しく感ぜられていた。
「矛盾だなぁ。」
アキナはようやく立ち上がり、アスカ達のもとへと勢いよく飛び出し、わっと大きな声を出す。
アスカは座っていた岩から転げ落ち、それ相応の反応を示した。
驚きもしなかったイエレナの頭を撫でながらアキナは言う。
「ふっふっ、いい反応ね。」
「・・・・・・そりゃ、どうも。」
アスカは、ぐっと口を潰しながら答える。
そして体をぐんと伸ばし、あくびを吐く。
つづいて、行こうかと手を差し出す。
「うん。」
アスカはイエレナの手をつなぐ。
アキナもイエレナの手をつなぐ。
でこぼこな身長差のおかげで、アキナは視線を横に向けるとアスカの横顔がよく見えた。
片方の手は、イエレナを離そうとしない。もう一方の手は、自分自身の歩みを進めるために、前に後ろに振られていく。
その手が胸を抑えることはないのだった。
上空。
白と黒の毛を持つ鳥が優雅に泳いでいた。
死骸を喰うとの噂のそれ、ぼたぼたと涎を溢しながら、アキナ達の歩みとは反対方向へと飛んでいく。
アキナは自身に覆いかぶさった影によってその存在に気づいていた。
見上げ、ぐっと首が回る。
じっとじっと見る。
一度も目線を外さない。
そうするとその鳥は、どこかで地に降りることなく遠くの空へと消えていった。
それでもアキナの心は、何度も何度もその空へ行方を思い描くほかなかった。
唇を舌先で舐め、潤していく。下唇を噛みながらうつむく。
何度も、何度も。




