ママ‐じゅっこめ
翌朝、朝食は沈黙に落ち着いている。
咀嚼は続いていき、ごくりと飲み込む音もありありとなる。
しかしそれもアキナの母によって止められる。
「アスカさん、なんだか大きくなった?初めて会ったときよりも、なんだか・・・・・逞しい感じが。」
「えっそうですか?そうですかね。うんそうです。」
「・・・・そう?私はあんまり変わってない気もするけど。」
そんな会話をよそにイエレナとアキナの父は黙々と頬を食い物で満たしていく。
そんな彩ができてきた朝食もほどなくして終わっていく。
母と父がキッチンに立ち、洗いを済ませていく。
その背中にアキナは言葉を投げる。
「私、多分・・・・もう家には戻らないかもしれない。から、今の私の目標伝えます。私は人の拠り所になりたい。頼れることができない人の集まれる場所を作りたいって思って、る。」
アキナは背中から視線を外しはしない。
「それだけ。それだけだから。もう・・・行くね。」
その言葉にアスカもイエレナもぎょっとし、いそいそと荷物をまとめていく。
当然アキナもそれに続いていく。
あっけなく荷物の整理は終わり、三人は家を出ていく。
扉に向かい、ふたりの大人と面を合わせる。
「じゃっ」
「うん。・・・・・・そう、ね。アキナ・・・・あなた、好きなようにしなさいね。」
アキナの母は触れている両手を合わせながら言う。
父はというと、聞こえていなかったのか理解できなくなっているのか、キョトンとした表情で目の前を見つめているだけであった。
その顔のまま小声で母に尋ねる。
「どこに行くんだ?」
「遊びに行くのよ。ちょっと遠くに。でもすぐ帰ってくるわ。だから気にしなくて平気。」
そして気にすることなくアキナは最初に背を向け、止まることなく歩いていく。
アスカ、イエレナもそれを追うように歩いていった。
鳥の羽ばたく音がする。
アキナはそれに思わず振り返るが、既に歩いてきた道は木々たちが景色を塞いでいる。母も父もまったく見えなくなっていた。
そして羽ばたいた鳥は、巣へと戻り、ピィピィとなく大きなそれに餌を与えていっている。
二羽に大した違いは見当たらなかったが、どちらが親で子なのかは、はっきりしていた。
アキナは立ち止まり、じっとそこにあったはずの家を想う。
変だ。
胸のあたりに手を添える。
「?、どうした?」
「いや。何も、何もなかった。」
「うん。何事もなくてよかったよ。まぁうん、ナニゴトモ・・・・。」
「そう・・・よね。」
アキナは再び、目線を歩んできた道に配る。
「私・・・・あそこにいるとき、苛立ってることあった?怒るのとは別で、苛立ってること。」
「う~ん。うんんん?」
「なかった?」
「なかったのかなぁ?・・・・・・まぁアキナの方がアキナのことがわかるんじゃない?」
アキナの手はぶらりと地面に向いている。指は曲がり、手に力が入っていないことが分かる。
「無感情。朝起きたら・・・・・」
「?」
そうアスカに伝えるアキナ。
風が、緑の葉を落とし、視界を不確かなものにしていく。
家の見えなさがより深まる。
そんな視界の中でアキナは自分自身に目を向ける。
細い指に膨らみのある胸、そして丸みが分かる四肢、順々に見るものを移していく。
「私・・・こんな・・・」とつぶやく。
「アキナ?」
アキナの眉は歪み、はかなげなままアスカを見つめる。そして再び、手を胸にあて、そこにある沸々とした心臓を確かに感じ取る。
「ちょっと、待ってて。」
喉から出る言葉、重くも軽い。
アキナは走り出した。
慣れない走り方で必死に足を動かす。
喉の渇きは、口に血の味を伸ばし、吸う息も吐く息も不快なものとなっていく。それでもアキナは走り続ける。
過ゆく葉は頬を切り、アキナは向かってくる空気を払いのけていく。
走り、走り、止まる。
ようやく家を前にしたアキナ、勢いを戻し、どんと扉を開く。
そして言う。涙を溢しながら、腹いせを飛ばす様に、笑いながら言う。
「また会いに来てやるよ。バぁカ!」
その言葉はしっかりと父と母に届けられる。
アキナは驚きに包まれた二人を見ると、また背を向けアスカの元へと急いで走り出すのだった。




