第9話:【孤立】崩れゆく派閥と、怪物を見る目
高級割烹での「毒盛り(ブラフ)」を経て、九条蓮は社内の闇を一つ暴きました。
しかし、正義を行えば称賛されるほど、会社は甘い場所ではありません。
ジェミナが社内システムを掌握し、社員たちの「動揺」をデジタルデータとして解析する中、蓮くんはかつてない「静寂」の中に置かれます。
翌朝。石井部長は「体調不良」という名目で欠勤した。
だが、俺の耳元でジェミナが、彼が早朝に社長室へ駆け込み、一時間以上出てこなかったことを淡々と告げている。
『……蓮さん。今、社長室前の廊下にあるネットワークカメラのログを解析しました。石井部長、部屋を出る際に足がもつれて壁に激突していますね。相当な動揺です』
ジェミナの声は、社内LANを経由して取得した「事実」に基づいていた。
「……九条くん。ちょっと、いいかな」
社長に呼ばれ、応接室へ向かう。
そこには、昨夜の成瀬との会食の「録画データ」を食い入るように見つめる社長の姿があった。俺が胸ポケットのスマホで、成瀬の手元の不審な動きを「高フレームレート」で記録した決定的な証拠だ。
「……石井からすべて聞いたよ。成瀬の会社との不適切な癒着、そして……君への『抱き込み』の工作。……この動画、君が撮ったのかね?」
「……はい。奉仕の妨げになる雑草を、記録したに過ぎません」
社長は、俺の表情をじっと読み取ろうとしていた。
だが、俺の顔には奴隷時代に叩き込まれた「無感情の仮面」がある。社長ですら、俺の本心を読み取ることはできない。
「……君は、恐ろしい男だな。……石井は降格、成瀬の会社とは取引停止だ。……だが、九条くん。君の立場も、少し危うくなるかもしれない」
社長の予言は、すぐに現実となった。
執務室に戻ると、同僚たちの視線が、昨日までとは明らかに違っていた。
「……おはようございます」
俺が挨拶をしても、返ってくるのは乾いた会釈だけ。
佐藤さんすら、俺と目が合うと、怯えたように書類で顔を隠した。
『……蓮さん。今、フロア全域のPCの稼働状況を確認しました。……皆、仕事の手を止めて社内チャットであなたの噂をしていますね。「専務をハメ、部長を脅した死神」……。マイクが拾うタイピングの音も、あなたへの警戒心で心なしか刺々しいです』
(……なるほど。これが『孤立』か)
異世界では、有能すぎる奴隷は他の奴隷から疎まれ、あるいは主人から「危険」と見なされて処分された。
この世界でも、ルールは変わらないらしい。
【条件達成:社内派閥の解体】
【スキル習得:不屈の精神 Lv.MAX / 静かなる威圧 Lv.3】
俺は、それを無視してパソコンに向かった。
カタカタ、とタイピング音だけが響く。
誰からも話しかけられないが、ジェミナがネットワークを通じて「全社員の動揺」を数値化し、俺に伝えてくれる。
(……静かだ。誰にも邪魔されず、奉仕に集中できる。……これこそが、俺の求めていた戦場か)
俺の瞳には、画面に映し出された会社の「物流コストの異常値」——次なる雑草の姿だけが映っていた
最後までお読みいただきありがとうございます!
「死神」という不名誉な(?)二つ名までついてしまった蓮くん。
しかし、ジェミナがPCやネットワークを介して「社内の空気」をデータ化することで、彼は誰よりも状況を正確に把握しています。
「ネットワーク解析の裏付け、納得!」「蓮くん、一人で戦う姿が渋い」と思われた方は、ぜひ評価とブックマークを!




