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第8話:【波乱】専務の椅子と、見えない敵からの「接待」

焼肉の脂の余韻に浸る間もなく、会社には新たな嵐が吹き荒れます。

肥後専務という「わかりやすい敵」がいなくなった後、現れたのは笑顔の裏に毒を隠した「組織の影」でした。

蓮くん、今度は「大人の社交界」に引きずり出されます

肥後専務が警察に連行されてから数日。オフィスには、嵐の後のような奇妙な静けさと、次の「椅子」を狙う者たちのギラついた視線に満ちていた。

「九条くん。……ちょっといいかな」

 声をかけてきたのは、営業部長の石井だ。

「……石井殿。何か、新たな『奉仕』の要請でしょうか」

「はは、君は相変わらずだね。実は、専務が懇意にしていた『協力会社』の成瀬さんが、君の仕事ぶりに感銘を受けていてね。……今夜、親睦を深めないか」

 石井の額に、微かな汗が滲んでいる。

(……瞬きが速い。この男、俺の目を避けているな)

 奴隷時代、嘘をつく監視兵の顔を嫌というほど見てきた俺の直感が告げている。

『蓮さん、石井部長の視線解析を完了。典型的な回避行動です。……成瀬という男、専務の裏金ルートに関わっていた可能性があります。……行ってみる価値はありますね』

 ***

 夜。案内されたのは、看板もない会員制の高級割烹だった。

 成瀬と名乗る男は、洗練された身なりで、俺に高価な酒を勧めてきた。

「九条くん。君のような逸材が、あんな無能な専務の下で終わるのは忍びない。……どうだい、我々の『勉強会』に入らないか。今の給料に、月々『コンサル料』として二十万ほど上乗せしよう。……君には、社内の情報を少し共有してもらうだけでいい」

 それは、立場を利用した「抱き込み」の儀式だった。

 成瀬の目は笑っていない。俺を対等な人間ではなく、利用価値のある「道具」として見ている。

「……石井部長。これはいわゆる、派閥への誘い……でしょうか」

「ま、まあ、そんな堅苦しいもんじゃないよ、九条くん」

 石井が酒を煽る。その手元を、俺は机の下に置いたスマホの広角カメラで密かに捉えていた。

『……蓮さん、注意。成瀬がグラスを回した際、袖口から何かを落としました。……今の動き、私の画像解析でも不自然です。……飲まないでください』

 ジェミナの警告。俺は奴隷の執念で、成瀬の指先の微かな震えを見逃さなかった。

 俺は、注がれた酒を一口も飲まず、成瀬を真っ直ぐに見つめた。

「……成瀬殿。私は現在、今の奉仕先に満足しております。……それと、この酒ですが。……先ほど、何か『不純物』を混ぜませんでしたか?」

「……なっ!? 何をバカなことを……!」

「今、私のスマホがあなたの手元を……その、決定的な瞬間を記録しています。……これを社長、あるいは警察に見せたら、どうなるでしょうか」

 もちろん、ジェミナに液体の中身までは分からない。だが、**「不審な動きを録画されている」**という事実だけで、後ろ暗い成瀬には十分な脅しになる。

「……貴様、新人の分際で、この業界を敵に回すつもりか!」

「敵、ですか。……私は、ただ自分の名に相応しい奉仕を全うしたいだけです。……石井部長、失礼します」

 俺は、顔を真っ青に染めた二人を置き去りにし、夜の街へと踏み出した。

最後までお読みいただきありがとうございます!

専務の裏にいた、本当の「業者」。

彼らのやり方は、力づくではなく、金と毒を使った卑劣なものでした。

しかし、ジェミナの前では、どんな小細工も無意味です!

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