『 心残り 』
10月5日(月曜日)に『刹那の風景7巻:68番目の元勇者と晩秋の旅路【電子専売】』が、ドラゴンノベルス様から発売されました。
BOOKWALKER様で、購入者特典書き下ろしショートストーリーがつきます。
内容は、セツナとアルトとアイリがサイコロを振って遊んでますので、楽しんでいただければ嬉しいです。
【セツナ】
早朝、いつも訓練をする時間。今日は本格的な訓練ではなく、軽く体を動かすだけの人が多かった。それは二日酔いの影響もあるが、色々準備をするための時間を確保するためだ。
「師匠、おはようございます」
「おはよう」
アルトが普段どおりに準備を終えてから、訓練にきた。アルトの少し後ろには、まだ眠そうな子ども達が立っている。顔を洗ってもまだ、眠気が覚めないらしい。
まぁ、昨日あれだけ騒いで、夜、寝るのも遅かったのだから、仕方ないともいえる。部屋でもう少し寝てきたらと声をかけたが、アルトと一緒にいる時間が減るから、寝たくないらしい。
「じゃあ、始めようか」
「はい……。あー、クロージャ達はどうする?」
「邪魔にならないなら、どんなことをするのか見てみたいんだ」
クロージャの言葉に、他の子ども達も頷きながら僕を見上げる。
「いいよ。今日は軽く体を動かすだけだから、よかったら一緒にやってみる?」
「いいんですか!?」
「俺も、一緒にやってみたい!」
セイルとワイアットが、同時に声をあげる。ミッシェル達にも顔を向けると、瞳を煌めかせながら頷いた。女の子達の服を魔法で動きやすいものに変えてから、基本的な体の動かし方を教えていく。呼吸の仕方、腕や足の伸ばし方、適当に体を動かすのではなく、鍛えるところを意識して動かすというのを体験してもらった。
30分ほどかけて、体を動かしてもらったのだが、最後の方になるとアルト以外の子ども達は息を切らしていた。
「思ったよりもきつい……」
クロージャが、汗を落としながら呟く。
「兄貴が話していた、丁寧に体を動かすっていう意味がわかった」
ロイールがそういって、ため息をつく。彼の兄であるロガンさんやミッシェルの兄である、ナキルさんやケニスさんも少し離れたところで、同じように体を動かしていたが、息が切れている様子はない。普段からしっかりと体を鍛えていることが窺えた。
「腕が重いし、なんかぷるぷるする」
ワイアットが、腕をさすっている。
「アルトは、平気そうだなぁ」
セイルが寝っ転がりながら、アルトを見た。
「俺も始めたときは、セイル達と同じようにへたばってたよ」
「そうなのか?」
「うん。師匠に助けてもらったときは、ガリガリだったし、体力もなかったから、歩くだけでも辛かったんだ」
子ども達がアルトの話に耳を傾ける。
「でも、師匠に教えてもらったことを毎日続けていくうちに、長時間歩いても疲れにくくなったし、魔物と戦うこともできるようになった」
「毎日続けることが大切なんだな」
「うん。勉強もそうでしょう?」
「あー、うん、そうだな」
セイルが、視線をそらす。
「だから、俺とくらべて落ち込むんじゃなくて、これから、強くなっていけばいいんだ」
アルトが、クロージャを見る。
「そんなにわかりやすかったか?」
「なんとなく」
「今日教えてもらったことを、毎日続けてみるよ。とりあえず、息を切らさなくなることが目標だな」
「俺も、鍛錬に取りいれよう」
クロージャの言葉に、ロイールも頷いた。
「うんうん。まあ、毎日続けてても、結果が伴わないこともあるけど……」
珍しくアルトがため息と一緒に、弱音を吐いた。
「大丈夫?」
ミッシェルが心配そうに声をかける。
「うん……」
アルトは返事をするが、その視線はチームのメンバーが【魔王】と呼んでいる対戦型の魔導具に向いている。少し悩んだあと、アルトが口を開いた。
「師匠、最後に挑戦してきてもいい?」
「いいよ」
「アルト?」
「どこにいくの?」
アルトはエミリアとジャネットに顔を向けることなく、「ごめん。あっち」と一言伝えると、魔導具の方へと歩いていく。
「……」
アルトらしからぬ態度に、子ども達が戸惑っているのがわかる。
時間があれば、ちゃんと説明していったと思う。しかし、今のアルトは旅立ち前の限られた時間の中で、越えられない壁をどうやって越えるかで頭がいっぱいで、気が回らなかったのだろう……。
アルトは【魔王】の記録を更新できないでいた。しかしそれは、アルトだけではなく【魔王】に挑戦しているすべての人達にいえることだった。
その理由は、自分の力量で倒せる敵は倒し終わり、皆、各上の相手と戦っているからだ。幾度、挑んでも負けることを繰り返す。
アルトの『毎日続けてても、結果が伴わないこともあるけど』という言葉は、行き詰まっていることが、心残りとなっていたからだろう。
もし、ここにクロージャ達がいなければ、旅立つギリギリまで粘っていたかもしれない。
「後を追ってもいいのか?」
ロイールがアルトの背中を見ながら呟くが、誰もその答えを持っていない。どうすればいいのか悩んでいる子ども達に、僕は簡単にではあるけれどアルトが何をしにいったのかを伝えた。すると、想像したとおり自分達もいきたいといいだしたので、魔導具のある場所まで一緒に歩いた。
魔導具の周りには黒のチームのメンバー達が集まっていた。皆、アルトの最後の挑戦を見届けるつもりなのだろう。いつもなら何かしら軽口を叩いているのだが、今日は誰も話していない。
どこか緊迫した雰囲気に、子ども達が居心地悪そうに身じろぎする。緊張からかエミリアとジャネットの顔色が悪いことに気づき、僕はその緊張が解けるように色々と話しかける。
魔導具の説明をしたり、質問に答えたりしているうちに、ジゲルさん達も何をしているのか気になったのか集まり、皆でアルトが戦闘準備を整え終わるのを待っていた。
息を切らせながらも、必死に戦っているアルトを子ども達が拳を握り、息を呑みながら見つめている。ミッシェルが「頑張って」と小さな声で呟いているが、防戦一方になっているこの状況では、アルトに勝ち目はないだろう。
その数分後、敵に脇腹を切られてアルトが膝をついた。勝負が決まる。
『はっ! 無様だな!』
その言葉にアルトが双剣の柄を力一杯握り、歯を食いしばりながら敵が消えるまで睨み付けていた。敵が消えても、アルトの手から力は抜けない。
「っ……」
一度俯き、様々な感情を吐きだすように大きく息を吐いてから立ち上がり、僕達の方へと帰ってきた。黒のチームの人達が口々に健闘をたたえてくれているが、アルトは頷くだけで笑うことはなかった。
アルトが戻ってきても、子ども達はしばらく声をかけることができないでいた。今、目の前で繰り広げられた戦闘にかなり衝撃を受けたようだった。
アルトが額の汗を服の袖で拭うのを見て、子ども達がハッとして動き出す。
「アルト大丈夫?」
「怪我してない?」
エミリアとジャネットが心配そうに声をかける。
「大丈夫。あの魔導具の中では怪我をしないようになっているから」
「痛そうだから、心配した」
「怪我をしてないのならよかった」
「ありがとう。さっきは説明できなくてごめん。もしかしたら、勝てるかもしれないと思ったらすぐに挑戦したくなったんだ」
「セツナさんが、説明してくれたから大丈夫だよ」
「うんうん」
「そっか。師匠、ありがとうございます」
「どういたしまして」
アルトは力なく僕に笑いかけると、その場に座り込んだ。
「落ち込んでいるのか? 何度でも再戦できるんだろう? 次はきっと勝てる!」
セイルがそういって慰める。アルトはその言葉に、苦笑するだけで答えなかった。
「俺、なんか変なこといったか?」
セイルが、不安そうにアルトを見る。
「何も変じゃないよ。大丈夫。ありがとう」
「いや、なんかあるだろう? 話したくないのならいいけどさ……」
セイルだけではなくワイアット達も聞きたそうにしているのを感じ取ったのか、アルトは軽く息をはいてから口を開いた。
「最初は、俺もセイルと同じことを考えていたんだ」
「同じことって?」
「負けても再戦できる。何度でも挑戦すればいいやって、簡単に考えてた」
「誰でも普通に考えることじゃないのか? 負けっぱなしは悔しいしさ」
「そうだと思う。負けると悔しい。すごく悔しい。それは俺だけではなく、他の人達も同じだと思う。だけど、なんていうのかな、その悔しいって気持ちが、俺と黒のチームの人達ではどこか違うような気がして気になっていたんだ。ずっと、心のどこかに引っかかっていた」
「……」
「その疑問は、初めて同じ敵に連続で負けたときにいわれた言葉で解けた」
「なんていわれたんだ?」
「『お前は、何回俺に殺されるんだろうな』って」
「……」
「そのときに思い出したんだ。この魔導具は、冒険者達のために作られたものだって。この魔導具を作った人は、遊びながら訓練できるっていってた。でも、その言葉を真に受けていたのは俺だけだったんだって気が付いた」
「遊びながら訓練になるなら、楽しくていいと思うけど」
セイルの言葉に、子ども達が頷いていく。
「俺もそう思ってた。だけど、もし、今、この強さの魔物が目の前に現れたら、俺は本当に死んでいたんだろうなって」
子ども達の顔つきが変わる。周りの大人達は黙って彼らの話に耳を傾けている。
「あの強さの魔物に相対したら、俺は……勝てない」
「……」
「勝てないってことは、その先はない。死んでしまうから。俺の悔しいは単純に勝てなくて悔しいという気持ちだった。他の人達の悔しいは、生き残れないって絶望しての悔しさだったんだ」
アルトの言葉に、カルロさん達が苦笑している。絶望するほどではないが、アルトのいうとおり、負けた先にあるものをカルロさん達は理解して戦っていた。
それでも、そういったことを意識しながらも、彼らは割り切り、楽しんで訓練している。どちらかというと、最近のアルトのほうが深刻に捉えているだろう。
「そのことに気付いてから、今までよりももっと負けたくないって思うようになったんだけど、全力で戦っても、全然勝てない」
「……」
「だから、セイルが変なことをいったんじゃなくて、俺の問題で、俺が解決しなければいけないことなんだ」
「そっか。教えてくれてありがとうな。それから、色々話してくれたのに力になれなくてごめん」
セイルが悲しそうに肩を落とす。
「大丈夫。セイルのいうとおり、次、戦うときは絶対に勝つはずだから!」
笑ってそういうが、セイル達は不安そうにアルトを見つめた。
「どうしたの?」
「死なないでくれよ。アルト、死なないでくれ」
クロージャが、ぽつりと言葉を落とす。
「ちゃんと、帰ってこいよ。リシアに、頼むからさ」
「一人で、危ないところにいくなよ」
ワイアットとロイールも続く。自分達の親友が、必死に戦っても勝つことができずに死ぬかもしれないという現実を垣間見て、怖くなったのかもしれない。
アルトは、クロージャ達が何を不安に思っているのかに気が付き、安心させるように笑う。
「ああ、さっきの敵には勝てなかったけど、逃げるだけなら逃げられると思うから、そんなに心配しなくても大丈夫」
「そっか……」
「……」
「……」
それでも、セイル達の不安は拭い切れていない。アルトは少し困ったような顔をしてから、思いっきり息を吸い、お腹の底から声をだした。
「あぁぁぁ!」
「!?」
突然、大声を上げたアルトに、子ども達が驚く。
「俺が勝って終わっていたら、皆を不安にさせることもなかったのに!」
暗くなった雰囲気を塗り替えるように、アルトが声を上げる。
「はぁ、師匠」
「うん?」
「師匠なら、どうするの?」
アルトは今まで一度も、僕にどうしたらいいかを聞くことはなかった。自分で乗り越えたかったのだと思う。だけど、友人達の不安を拭うために自分のこだわりを捨てることを選んだのだろう。
「それは、【魔王】で躓いたらどうするかってこと? それとも、勝てない魔物に相対したらってこと?」
「勝てない魔物にあったときの対処は、師匠から教えてもらってる。だから、【魔王】で勝てなくなったらどうするのか聞きたいんだ」
アルトの質問に、黒のチームの人達までもがこちらに注視する。
「僕が、アルトと同じ状況だったらという前提で答えるよ」
「えー? どうして、師匠が勝てなくなったらじゃないの?」
「僕が、この魔導具の敵に負けることはないから」
周りの声がピタリと止まる。
「えー……」
「僕が負けるとしたら、この魔導具の制作者だけだよ」
アルトはこの魔導具を誰が作ったのかを知っている。それは、黒のチームの人達も同様だ。
「それも、剣のみで戦ったらの話で、魔法で戦うのなら絶対に負けない」
「そうだった、師匠だもんね!」
その意味はちょっとわからないけど、気にしないでおく。
「まぁ、僕がアルトだったら、二つ前の敵と何度も戦うと思う」
「え? なんで二つ前?」
「アルトが、二つ前の敵に勝ったときの称号を覚えている?」
「覚えてない」
「【かろうじて勝利した剣士】」
アルトが、不満そうに眉根を寄せた。
「僕なら、称号の【かろうじて】がとれるまで同じ敵と戦う」
「あ……」
それだけで、何をいいたいのかを理解したのだろう。アルトが目を見張って僕を見つめる。
「あの称号は、遊びでついているわけではないよ」
この言葉に、チームの人達も目を丸めた。
「自分と敵との力量差を教えてくれているんだよ。だから、【かろうじて】とか【辛勝】とか【ぎりぎり】とかがついているうちは、先に進まない」
「……」
「そもそも、『倒せたとしても納得いかなければ、同じ敵と戦う事もできる』と話していたはずだよ。それは、しっかり倒せるようになるまで、繰り返せっていっているのと同じでしょう?」
アルトだけではなく、黒のチームの人達も肩を落としている。一度聞いただけだから、忘れていても仕方ないけれど、それ以上に先に進むのが楽しかったのもあるだろう。
「先に進むことは楽しいけれど、ときには止まって足元を確認することも大切だと思うから、僕がアルトなら、その敵を楽に倒せるようになるまで次にはいかない。それが、答えだね」
「……はい」
がっつりと落ち込んでしまったアルトを、ミッシェル達が別の意味で心配している。このままでは、気持ちよく出立できないかもしれないと考え、僕はアルトに声をかけた。
「アルト、おいで」
「え? どこに?」
「一緒に戦おう」
「え!」
アルトの目が輝き、耳がピンと立つ。僕の後ろを跳ねるようについてきて、魔導具の前で僕の隣りに並んだ。
「師匠、どうやって魔導具を動かすの? 師匠一度もやったことないよね?」
「僕は、この魔導具を作り直したからね……。好きなところから始められるよ」
「そっか」
「始めるよ。アルトはさっきの敵を自分に引きつけておいてね。僕はその他の敵を殲滅するから」
「俺、負けたんだけど」
「僕が敵を殲滅する間ぐらい、持ちこたえられるでしょう?」
「多分、できると思う」
「じゃあ、頼んだよ」
魔導具を起動させ、二人で戦うには多いと思われる敵を配置する。現れた敵の数に、アルトが息を呑むが、すぐに気持ちを切り替え自分が戦うべき敵に集中した。
戦闘が始まり、アルトの方へ敵がいかないように気を付けながら、一体ずつ倒していく。アルトは順調に敵の攻撃を躱しているが、ときどき首をかしげていた。
その様子に内心苦笑し、アルトが自分で気付くまで時間を稼ぐ。
「師匠!」
「どうしたの?」
「この敵、倒しても大丈夫?」
「いいよ」
僕の返事と同時に、アルトがさっきまで倒せなかった敵を倒した。簡単に倒せたことに、アルトが一番驚いて、動きが完全に止まった。僕は、その間にすべての敵を倒し終える。
敵の、『いい気になるなよクソが!』という言葉と同時に、魔導具の周りに張られていた結界が消える。
「なんで?」
「うん?」
「ずっと、倒せなかったのに」
アルトがじっと僕を見上げてくる。その瞳は戸惑いに揺れていた。僕はアルトの背中を軽く叩いてから、なぜ勝てたかの説明をしていく。
「黒のチームの人達と一緒に訓練をするようになって、いろんな人の戦い方を見て、その戦い方を学んできたと思うんだ」
「うん」
「とくに【魔王】での戦い方は、かなり影響を受けていたと思う」
アルトが「そかなぁ?」といって、首をかしげる。
「だけどね、彼らを戦闘の参考にするのは、少し早かったかな」
「どうして?」
「アルトはまだ、彼らのように体が出来上がっていない」
「え?」
「だから、彼らと同じように力に力で対抗しようとしても押し負けてしまうんだ。二つ前からの敵は、力の強い敵だったから、メンバーと同じようにしようとしても、力が足りなくて防戦一方になってしまって負ける」
「……」
「僕との訓練と同じように、力で対抗しようとせずに、躱したり、受け流したりしながら戦えば、勝てるとは思っていたんだよ」
「そっか……。もっと早く、師匠に聞けばよかった?」
「うーん。命がかかっている魔物との戦いは、聞いてくれたほうがいいけれど、【魔王】は試行錯誤しながら経験を積んでいくものだから、楽しんで訓練するといいと思うんだよ」
「魔物だったら死んでるのに、楽しんでいいのかな?」
「もし、魔物だったら死んでいたかもしれない。それを忘れずにいれば大丈夫。駄目なのは、どうせ死なないからと適当に戦うことだよ」
「はい。師匠、俺、もう一戦だけしてきていい?」
「勝利を掴んでおいで」
「うん!」
アルトは【魔王】を起動し、僕は元いた場所へ戻る。戻る途中で黒のチームのメンバー達から「相変わらず非常識な奴だ!」とか「一緒に戦って助言を」とか、いわれるが笑顔で応えておいた。
アルトは危なげなく勝つことができ、皆に祝われている。賑やかな中、そろそろ朝ご飯にしようと家の方へ歩きかけたとき、クロージャが僕の前で両膝をついた。
「え?」
膝をつかれる理由がわからず、クロージャを凝視する。
「セツナさん。俺は、将来、アルトと一緒に冒険者になるために、ギルドで戦い方を学ぼうと思っています」
クロージャの行動に驚いていた、ロイール達も一斉に僕のそばにきて両膝をつく。アルトはそんな友達達を黙って見ている。
「武器の扱い方を学び、魔物との戦い方を学んだら、俺にも【魔王】に挑戦する権利を与えて貰えませんか、お願いします。お願いします」
僕を真っ直ぐに見て、願いをいい終わると同時に深く頭を下げる。それは、クロージャだけではなく、ロイールもセイルもワイアットも同様だった。
「あ……」
小さな声がしてそちらを見ると、ミッシェルが走ってきて同じように膝をつこうとするのを襟首を掴んで止める。
「えぇ? どうして?」
「膝をつくのはやめようね?」
「でも……」
手を離すと、そのまま膝をつきそうだったので手を離さず、クロージャ達に立ってくれるようにお願いする。
「話は向こうで聞くよ。一緒にいこう」
彼らは軽く頷くと立ち上がり、襟首を掴まれているミッシェルを見てなんともいえない表情を浮かべていた。
僕達のやり取りを見ていた黒達が肩を振るわせ、ミッシェルの両親が呆れたような視線を娘に向け、彼女の兄達はなぜか期待の目を僕に向けている……。
いまだに笑い続けているアギトさんとサフィールさんを見て、そういえば、昨夜、子ども達の面倒を見ようと思うと話していたことを思い出し、僕は丸投げすることに決めたのだった。
クロージャ達のことをアギトさん達に任せることが決まり、彼らは緊張しながらも、ここで訓練できることを喜んでいた。
今は、和気藹々と朝ご飯を食べている。アルト達の席では、ミッシェルやエミリアやジャネットがアルトにせっせと食べ物を貢いでいる。自分が美味しいと思ったものを、アルトに半分分けているようだ。
彼女達に対抗してか、セイル達も自分のお勧めをアルトのお皿に乗せていき、アルトのお皿は料理が山盛りになっていた。
自分の分を分けなくても、取りにいけば同じものが食べられるというのに、彼らは自分の分をアルトのお皿に載せる。アルトは少し困ったような顔をしながらも、嬉しそうに尻尾が揺れていた。
『アルト、僕は準備のためにここを離れるけど、セリアさんをお願いするね』
『うん。わかった!』
アルトが椅子を用意してセリアさんを呼ぶ。セリアさんがアルトの隣りに座り話し始めたのを確認してから、僕はそっと席を立ち、カルロさん達が待っている部屋へと向かったのだった。





