第3話 学校一の美少女と、秘密を共有することになりました
学校一の美少女と一緒に登校する。
文字にすれば、ずいぶん華やかな響きがある。
青春ラブコメの主人公なら、きっと喜ぶような状況なのだろう。
しかし、現実はそう甘くない。
「ねえ、樹くん。今日の一時間目って何だっけ?」
「数学」
「うわぁ……朝から数学かぁ」
「時間割を見れば分かるだろ」
「今は樹くんに聞きたかったの!」
「時間割に負けた気分だな」
「あははっ、何それ!」
篠原あかりは、朝から元気だった。
昨日、俺の家であれほど落ち込んでいた彼女と、今隣を歩いている彼女が同一人物だとは思えないほどだ。
明るくて、よく笑って、誰とでも自然に話せる。
それが、周囲から見た篠原あかりという女の子だった。
そして今、俺はそんな彼女と並んで歩いている。
問題は、通学路ですれ違う生徒たちの視線だった。
「……なあ、篠原」
「ん?」
「俺たち、目立ってないか?」
「え? そう?」
「そうだよ」
前から歩いてきた男子生徒が、俺を見て、次に篠原を見た。
そして、もう一度俺を見る。
その顔には、はっきりと書いてあった。
――どうしてお前なんだ。
分かる。
俺も同じことを考えている。
「別にいいじゃん。仲良くなったんだから」
「昨日まで、まともに話したこともなかっただろ」
「じゃあ、昨日から仲良くなったの!」
「理屈が強引すぎる」
「人間関係って、そういうものでしょ?」
篠原は楽しそうに笑った。
俺は反論を諦める。
彼女と話していると、こちらが真剣に考えていることほど、あっさりと押し流されてしまう。
本当に不思議な人だ。
いや、正確には、不思議なところが多すぎる人なのだ。
昨日の夜、彼女は俺の前で弱音を吐いた。
けれど今朝は、そんなことなどなかったかのように笑っている。
無理をしているのだろうか。
それとも、昨日の出来事を少しは乗り越えられたのだろうか。
俺には分からない。
ただ、彼女が笑っているからといって、何も問題がないと決めつけるのは違う気がした。
「……樹くん?」
「何だ?」
「さっきから、私の顔ばっかり見てない?」
「見てない」
「見てたよ!」
「前を向いて歩け」
「はーい」
彼女は小さく笑いながら、再び前を向いた。
……本当に、調子が狂う。
◇
教室に入った瞬間、俺は自分の考えが甘かったことを悟った。
「あかり、おはよう!」
「おはよう! 今日も早いね!」
「ねえ、昨日の写真どうだった?」
「おはよう! 写真? あとで見せるね!」
いつも通りの光景だった。
篠原は友人たちに囲まれ、自然と会話の中心になっている。
俺は静かに自分の席へ向かった。
これでいい。
彼女は彼女の日常に戻った。
俺は俺の日常に戻る。
昨日のことは、俺たち二人だけの秘密だ。
……そう思っていた。
「ねえ、あかり」
女子生徒の一人が、何気ない調子で尋ねた。
「今日、一緒に来た男の子って誰?」
俺の足が止まった。
篠原は一瞬だけこちらを見た。
そして、何でもないことのように答えた。
「樹くんだよ。同じクラスの黒沢樹くん!」
「えっ、黒沢くん?」
「うん!」
「二人って、そんなに仲良かったっけ?」
教室の空気が、ほんの少し変わった。
俺は机の横で固まっていた。
頼む。
頼むから、余計なことは言わないでくれ。
篠原は少し考えるように首を傾げた。
「昨日、ちょっといろいろあってね」
やめろ。
その言い方は誤解を招く。
「……いろいろ?」
友人の声が、一段高くなった。
「うん。樹くんのこと、前よりずっと知れたんだ!」
やめてくれ。
お願いだから、それ以上は何も言わないでくれ。
「へえええええっ!?」
教室に歓声が響いた。
何人かの男子まで、こちらを振り返る。
大地が、少し離れた席から親指を立てていた。
お前はあとで覚えておけ。
篠原は周囲の反応を見て、きょとんとしていた。
「……え? 何でみんな、そんなに驚いてるの?」
「いやいやいや! あかりが男子と一緒に登校してきたんだよ!?」
「それが?」
「それが、って……!」
友人は言葉を失った。
俺も同じ気持ちだった。
篠原あかり。
自分がどれだけ周囲から注目されているのか、本当に理解していないのではないだろうか。
「……篠原」
俺は小声で呼んだ。
「ん?」
「ちょっと話がある」
「いいよ!」
彼女はあっさりとうなずいた。
そして、俺の袖を軽くつかむ。
「みんな、ちょっと樹くんを借りるね!」
「えっ!?」
「ちょっと待って、あかり!」
「二人で何するの!?」
女子たちの声を背中に受けながら、俺は教室の外へ連れ出された。
廊下に出たところで、ようやく彼女は足を止める。
「……どうしたの?」
「どうしたの、じゃない」
「え?」
「さっきの発言、誤解されるだろ」
「どの発言?」
「昨日のことを、いろいろあったとか言ったやつだよ」
彼女は数秒考えた。
そして、ぽんと手を打った。
「あっ!」
「分かったか?」
「うん!」
俺は少し安心した。
「ごめんね。説明が足りなかったね」
「そうだ。だから――」
「昨日、樹くんの家に泊めてもらったって言えばよかったんだ!」
「違う! そうじゃない!」
思わず声が大きくなった。
通りかかった生徒たちが、一斉にこちらを振り返る。
篠原は目を丸くした。
「……樹くん、声大きいよ?」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
「えっ、私?」
「お前以外に誰がいる!」
彼女はしばらく俺を見つめていた。
そして。
「……ふふっ」
笑い始めた。
「何で笑うんだよ!」
「だって、樹くん、昨日からずっと面白いんだもん!」
「俺は真剣なんだが!?」
「あははっ、ごめん、ごめん!」
彼女は楽しそうに笑っていた。
その笑顔を見ていると、さっきまでの苛立ちも不思議と消えていく。
……まったく。
どうやら俺の平穏な学校生活は、もう戻ってこないらしい。
◇
午前中の授業は、ほとんど頭に入らなかった。
理由は簡単だ。
教室中の視線が、ときどきこちらに向けられるからだ。
特に男子。
休み時間になるたび、何人かが俺の机の周りを通り過ぎる。
そして、何かを聞きたそうな顔をする。
聞きたいなら聞けばいい。
ただし、面白い話は何もない。
俺は篠原を家に泊めた。
だが、何も起きていない。
そもそも家族にも事情を説明してあるし、彼女は客間で眠った。
俺はただ、困っている人を放っておけなかっただけだ。
それ以上の意味はない。
……ないはずだ。
「黒沢」
昼休み、ついに大地がやってきた。
「何だ」
「ちょっと、話そうか」
「嫌だ」
「まだ何も聞いてないだろ!」
「お前の顔を見れば分かる」
大地は俺の肩に手を置いた。
「親友として、聞いておかなきゃいけないことがある」
「親友になった覚えはない」
「ひどい!」
「で、何だよ」
大地は周囲を確認し、声を潜めた。
「……篠原さんと、付き合ってるのか?」
「付き合ってない」
「本当に?」
「本当だ」
「じゃあ、昨日は何があった?」
「事情があって、家に来ただけだ」
「事情?」
「本人が話したくないことを、俺が勝手に話すわけにはいかないだろ」
大地は少しだけ真面目な顔になった。
「……そっか」
意外だった。
いつもの大地なら、もっとしつこく聞いてくると思っていた。
「まあ、そういうことなら無理には聞かないけどさ」
「ああ」
「でも、一つだけ言わせてくれ」
「何だよ」
大地は俺の肩を軽くたたいた。
「お前、いつの間にそんな主人公みたいなことができるようになったんだ?」
「帰れ」
「ひどい!」
大地は笑いながら去っていった。
俺は弁当を取り出す。
すると、隣の席から明るい声が聞こえてきた。
「樹くん!」
……来た。
「一緒に食べよ!」
「……ああ」
俺はうなずいた。
周囲の視線が集まる。
気にしない。
気にしないったら、気にしない。
俺たちは昨日と同じように、机を並べて昼食を食べ始めた。
「ねえ、樹くん」
「何だ?」
「昨日の写真って、もう確認した?」
「ああ。何枚かいい感じに撮れてたよ」
「本当!?」
「本当だ」
「見たい! 今度見せてね!」
「分かった。あとで送るよ」
「やった!」
彼女は心からうれしそうに笑った。
そういえば、昨日の撮影中も、彼女は何度も写真を見たがっていた。
あのときの表情を思い出すと、自然と頬が緩みそうになる。
「……樹くん?」
「ん?」
「何だか楽しそうだね?」
「気のせいだ」
「絶対に何か考えてたでしょ!」
「考えてない」
「怪しいなぁ」
彼女は俺の顔をのぞき込んだ。
近い。
昨日も思ったが、彼女は人との距離が近すぎる。
俺は何も言わず、弁当に視線を戻した。
「……そういえば」
篠原が箸を止めた。
「連絡先、交換しない?」
「連絡先?」
「うん。写真も送ってほしいし、それに……」
彼女は少しだけ言葉を止めた。
「これからも、樹くんと話したいから」
「……別にいいけど」
「本当?」
「ああ」
「やった!」
彼女はうれしそうにスマートフォンを取り出した。
こうして俺たちは、連絡先を交換した。
たったそれだけのことなのに、彼女の名前が自分のスマートフォンに表示された瞬間、少しだけ不思議な気持ちになった。
これからは、学校の外でも彼女とつながっている。
そう考えると、昨日までとは何かが違って見えた。
「ねえ、樹くん」
「何だ?」
「みんな、すごく気にしてるね」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「私?」
「お前だよ」
「そっかあ」
彼女は少し考えるように首を傾げた。
「……でも、私はうれしいよ」
「何が?」
「樹くんと仲良くなれたこと」
俺は箸を止めた。
篠原は、何でもないことのように続ける。
「昨日まで、ちゃんと話したこともなかったのに。今は一緒に登校して、お昼も食べてる」
「……そうだな」
「何だか、不思議だね」
彼女は穏やかに笑った。
俺は、その笑顔を見て少しだけ安心した。
昨日の夜、彼女は泣いていた。
今は笑っている。
それが本心なのか、それとも無理をしているのか。
俺にはまだ分からない。
けれど、少なくとも今は、彼女が笑っていることを素直にうれしいと思えた。
……本当に、調子が狂う。
◇
午後の授業が終わると、俺はすぐに帰る準備を始めた。
今日は寄り道をするつもりはない。
家に帰って、昨日撮った写真を整理したい。
それに、昨夜はあまり眠れなかった。
早めに帰って休みたい。
「樹くん!」
……来た。
俺は鞄を持ったまま振り返った。
「何だ?」
「今日、時間ある?」
「ない」
「即答!?」
「昨日の今日だからな。少しくらい休ませてくれ」
「うーん……それもそうだね」
意外にも、彼女はあっさりと引き下がった。
「じゃあ、また明日!」
「ああ。また明日」
俺は教室を出た。
廊下を歩きながら、少しだけ肩の力を抜く。
今日は何も起こらない。
そう思った。
ところが。
「……あれ?」
昇降口で靴を履き替えていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。
篠原だった。
彼女は校門の近くに立ち、スマートフォンを見つめていた。
帰ったのではなかったのか。
声をかけようとして、俺は足を止めた。
彼女の表情が、朝とはまるで違っていたからだ。
画面を見つめるその目は、ひどく寂しそうだった。
やがて、彼女はスマートフォンをしまった。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
その瞬間、俺と目が合った。
「……樹くん?」
「……何してるんだ?」
「えっと……」
彼女は少し困ったように笑った。
「ちょっと、考え事」
「……そうか」
俺はそれ以上、聞かなかった。
聞けなかった。
彼女が何かを隠していることは分かる。
けれど、無理に聞き出すのは違う気がした。
俺たちは、しばらく黙って立っていた。
やがて、篠原が小さく口を開いた。
「……樹くん」
「何だ?」
「今日、帰り道、一緒に歩いてもいい?」
俺は少し驚いた。
「……いいけど」
「ありがとう」
彼女は微笑んだ。
けれど、その笑顔はどこか不安定だった。
◇
帰り道。
俺たちは並んで歩いていた。
昨日とは違い、雨は降っていない。
夕日が街をオレンジ色に染め、道の端には桜の花びらが散っていた。
いつもなら、篠原は何かしら話題を見つけてくる。
昨日見たドラマ。
好きな食べ物。
学校の先生の話。
けれど、今日は違った。
彼女はほとんど何も話さなかった。
俺も、無理に話しかけなかった。
沈黙の中を、二人で歩く。
不思議と、嫌ではなかった。
「……樹くん」
しばらくして、彼女が口を開いた。
「昨日のこと、誰にも話してない?」
「話してない」
「……本当に?」
「ああ。大地にも詳しいことは話してない」
彼女はほっとしたように息を吐いた。
「そっか……よかった」
「……家のことか?」
彼女の足が止まった。
俺も立ち止まる。
「……ごめん。聞くつもりはなかったんだけど」
俺は視線を落とした。
「嫌なら、答えなくていい」
長い沈黙があった。
やがて、彼女はゆっくりと話し始めた。
「……昨日ね、お母さんと喧嘩したの」
「……うん」
「進路のことで」
彼女は両手をぎゅっと握りしめた。
「お母さんには、私に行ってほしい大学があるんだって。でも、私はまだ、自分が何をしたいのか分からなくて」
彼女は困ったように笑った。
「いつもは、何でもすぐ決められるのにね」
「……」
「それで、言い合いになっちゃった」
彼女は小さく息を吐いた。
「本当は、ちゃんと話せばよかったんだと思う。でも、私、怖くて……」
「何が?」
「お母さんをがっかりさせること」
その言葉は、昨日の夜にも聞いたものだった。
誰かをがっかりさせること。
期待に応えられないこと。
彼女は、そういうものをひどく恐れている。
「……篠原」
「ん?」
「お前は、どうしたいんだ?」
彼女は顔を上げた。
「……え?」
「お母さんがどう思うかじゃなくて。周りがどう思うかでもなくて」
俺は少しだけ言葉を選んだ。
「篠原自身は、どうしたいんだ?」
彼女は黙った。
俺は続ける。
「まだ分からないなら、それでもいいと思う。今すぐ答えを出さなきゃいけないわけじゃないだろ」
「……でも」
「ただ、自分の気持ちまで、誰かの期待に合わせなくてもいいんじゃないか」
言い終えたあと、俺は少しだけ後悔した。
偉そうなことを言ってしまった。
自分だって、将来のことを決めきれていないくせに。
けれど、篠原は怒らなかった。
彼女はしばらく俺を見つめていた。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「……ありがとう」
「……別に」
「ううん。ありがとう」
彼女は小さく笑った。
今度の笑顔は、さっきまでより少しだけ自然だった。
その変化を見て、俺はようやく胸の奥にあった重苦しさが少し和らいだ気がした。
◇
駅前に着いた頃、空はすっかり夕暮れになっていた。
「……じゃあ、私、こっちだから」
「ああ」
篠原は改札へ向かおうとした。
けれど、数歩進んだところで立ち止まった。
「……樹くん」
「何だ?」
彼女は振り返った。
いつもの明るい表情。
けれど、その頬にはほんの少しだけ赤みが差していた。
「昨日、私が寝ちゃったとき……」
「……ああ」
「変なこと、してないよね?」
「…………は?」
待て。
何だ、その質問は。
「い、いや、何もしてないけど!?」
「本当に?」
「本当だよ! そもそも、何をするんだよ!」
「そ、それは……」
彼女の顔が赤くなった。
俺も、自分の顔が熱くなっているのを感じた。
「……だって、私、男の子の家に泊まったの初めてだったし」
「……俺だって、女子を泊めたのは初めてだよ」
「……そっか」
沈黙。
気まずい。
昨日の夜より、よほど気まずい。
彼女は視線をそらし、指先を落ち着かなげに動かした。
「……でも」
「……?」
「樹くんなら、よかったかも」
「…………」
俺の思考が止まった。
彼女は、言った本人も驚いたように目を見開いた。
「ち、違う! 今のは、そういう意味じゃなくて!」
「……分かってる」
「本当に!?」
「……たぶん」
「たぶんって何!?」
彼女は顔を真っ赤にした。
そして、逃げるように改札へ向かった。
「じゃ、じゃあ、また明日ね!」
「あ、ああ!」
彼女は改札を通り、何度かこちらを振り返った。
最後に、小さく手を振る。
俺も、ぎこちなく手を振り返した。
彼女の姿が見えなくなる。
俺はその場に立ち尽くした。
「…………」
何なんだ。
本当に、何なんだ。
俺は片手で顔を覆った。
心臓が、うるさい。
ただの同級生だ。
昨日、少し事情があって家に泊めただけ。
それだけの関係だ。
なのに。
彼女の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
――樹くんなら、よかったかも。
「……勘弁してくれ」
俺は小さくつぶやいた。
けれど、その口元は。
どうしようもなく、緩んでいた。
◇
その夜。
自室で昨日撮った写真を整理していると、スマートフォンが震えた。
画面には、篠原あかりの名前が表示されていた。
俺は思わず手を止めた。
……落ち着け。
連絡先は、今日の昼休みに交換したばかりだ。
写真のことかもしれない。
明日の連絡事項かもしれない。
何もおかしなことはない。
深呼吸をして、メッセージを開いた。
『今日は一緒に帰ってくれてありがとう!』
その下に、もう一通。
『あと、昨日のことは二人だけの秘密にしてね』
俺は画面を見つめた。
そして、返信を打った。
『分かった。誰にも話さない』
送信。
数秒後、返事が届いた。
『ありがとう!』
続いて、もう一通。
『おやすみ、樹くん』
俺はしばらく画面を見つめていた。
たったそれだけのメッセージだ。
それなのに、なぜかすぐにスマートフォンを置くことができなかった。
俺は返信する。
『おやすみ、篠原』
送信したあと、スマートフォンを机に置いた。
そして、ベッドに倒れ込む。
「……明日も、会うんだよな」
当たり前のことをつぶやく。
同じ学校。
同じクラス。
隣の席。
明日も、彼女は笑うだろう。
俺に話しかけてくるだろう。
きっと、また俺を困らせるだろう。
それでも。
明日の朝が、少しだけ楽しみだった。
俺は目を閉じた。
まだ、恋だとは思わなかった。
ただ、彼女のことをもっと知りたいと思った。
彼女が笑っていると、少し安心する。
彼女が悲しそうにしていると、気になってしまう。
彼女の言葉を、何度も思い出してしまう。
それが何なのか。
俺はまだ、知らなかった。
けれど。
その夜、眠りにつく直前。
スマートフォンが、もう一度だけ震えた。
俺は目を開けた。
画面には、篠原からの新しいメッセージが表示されていた。
『ねえ、樹くん』
『明日、放課後って空いてる?』
…………。
俺は天井を見上げた。
「……またかよ」
そうつぶやきながら、俺は返信を打つためにスマートフォンを手に取った。
どうやら、明日も退屈する暇はなさそうだ。
第3話終了
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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