第97話
「あ〜最悪だ。わかっていても手を出せないのが人情よな。」
現れた2人の影は、近づいてくると、いやシルエットをみるだけで想像に難くない。
「ハルとディケと、模造体だとしても2人と戦えと…」
2人の武装は弓と杖。
典型的な遠距離ディーラーだ。
まず第一に近づく、そして問題は2人を傷つけられるのか…いや、これはニセモノなんだ。見た目に騙されてはならない。
俺ほどじゃないにしてもそれなりに攻撃もサポートもできる二人。接近できれば十中八九圧倒できる。
だが一番の問題は見た目が2人と全く同じということだ。
ハルはすぐにでも弓を射れる体勢になって俺を狙っている。
ディケも魔力を練って攻撃魔法の準備をしている。
「さぁ〜て、どうしたもんか…」
こちらの様子を伺って動いてこない。
土魔法で上で鍾乳石作りを落とす。
ディケの障壁で無事なようだ。
半分ホッとしている自分がいる。
「敵なんだ。ニセモノなんだ。頭を切り替えないと。」
倒す…いや、殺すつもりで戦わないとならない。モンスターならば「倒す」でいいけど、今回は対人戦だ。
戦力的なことで言えば先にハルを排除すべきだろう。
考え事をしていると向こうから先制攻撃を許してしまった。
ディケが火球を放ってきたので回避しようと反対に飛び出すとそこにはハルの矢が。
「なかなかやるじゃないか!」
翡翠を盾に矢を弾いて連携攻撃をいなした。
落ち着かせてくれるわけもなくそこからはハルの連射がくる。だが矢をつがえる動作が必要なのでいかに早くやろうともスキが生まれる。
スキをみて少しずつ接近していく。
あと少しで飛び込める距離まできた。
ディケの障壁があるから逃げる様子がないのだろうか…
翡翠に火の魔力を纏わせて飛び込む。
予想通り障壁が見えたので飛び込む勢いに合わせせて横回転斬りしながら突入する。
ガラスを割るように障壁の内部に入り込めた。
模造体には感情がないのか驚いたり、たじろいだりするような様子はない。
俺は入り込んだ勢いのままハルと剣の間合いに入る距離までつめた。
手が震える。
決意が鈍る。
大声に無理に勢いをのせて更に一歩踏み込み振りかぶって斬りおろす。
ハルの体は斜めに両断された。
途端に消失した。
動悸が激しい。視界が揺らぐ。
呼吸が荒く、翡翠を支えにようやく立っていられるくらいだ。
わかっていても、理解はしていても納得できるもんじゃない。
試練が終わったわけじゃないからディケから視線を外すわけにはいかない。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
天使に対する怒りしかない。
試練なのは理解してる。
もし敵に変身する能力を持っている者がいればこんな事態にも遭遇するだろう。
そこらへんのどうでもいい人ならまだここまでにはならなかっただろう。
まだ試練は終わらない。ハルだけじゃない。ディケも殺さないとならない。
距離にして5mくらい。一気に飛び込んで間合いまで詰められる程度だ。
こんな苦しみを長くしていたくない。
ここで立ち止まれば、いつまでも剣を振れない。
ならば、ここで終わらせる。
歯を食いしばり、声にならない声を張り上げる。足に力を込めて地面を蹴り間合いを詰めてその勢いのまま胸に剣を突き刺した。
剣が体を貫通したところでディケの模造体も消失した。
「くそっ!」
怒りにまかせて地面を殴ると大穴があいてしまった。
「お疲れ様。よくがんばったね。おおっと!こっちに戦意を向けるのはお門違いだよ。これは試練だ。まず話を聞いてくれたまえ。」
天使の姿を見た途端に殴りかかったはずだが、なぜか距離が離れていて手が届かなかった。
「相手が相手なだけにすぐに落ち着けとは言わないけど、こっちの話を聞いてほしい。まずは試練の意図を伝えよう。君は強すぎるんだよ。だから戦いにおいて負ける心配なんてしなくていいんだろ?多少の縛りがあったとしてもそれでもね。」
「確かにそうかもな。様々なスキルもある。多少の困難はあっても乗り越えられないことはないだろうね。」
「そう!そうなんだよ。肉体的な強さと心の強さは一緒じゃないんだよ。君には大変かもしれないが、ストレスを与えさせてもらったよ。君自体は強いが、君のまわりには頼るべき仲間がいるんだ。1人で勝ってはいけるだろうが、それは1人でいていいってことにはならないんだよ。その為にはその仲間をより理解すべきだと思って対峙してもらったよ。」
「言ってることはわかるけど、そこまですることは…特に最後の2人との戦いなんて…」
「あぁ。最後のは君の決意を試させてもらった。仲間の強さを知り、支え合うこと。それを試すんだよ。おそらく仲間に剣を向けるという耐え難い苦痛に仲間に頼ることもあるだろう。君は一人じゃないんだ。みんなとの絆も武器の1つなんだ。でもどんな状況においても君の力を出せるようになって欲しい。味方の姿になったからって敵と戦えなくなっては困るんだよ。」
「困る?誰が?」
「僕が。」
「???」
「君は何のためにこの試練を複数受けているんだい?」
「それは俺が『七つの大罪』を持っていて、その謎を解明するためだよ。」
「そうだよね。ここでは明かせないことになっている。だけど、君には肉体的な強さだけじゃなくて心の強さ、仲間との信頼それらも得て欲しいと思っている。そうじゃないと…」
「そうじゃないと?」
「おっと!これから先は最後の試練を迎えた時に知ることになる。その真実を知りたいなら今は試練をすべて突破することに注力するんだね。」
「最後の試練か…」
「あと3つあるから頑張って。あっ!そうだ。合格祝いだ。コレを渡そう。試練突破おめでとう。」




