第96話
ダンジョンに入る前に湖にいるシラナに声をかけた。
「ずいぶんここの水が気に入ったんだな?」
「大きく広い海もよいのじゃが、水の質がとってもよいのじゃ。」
「たぶん今日潜ったらシラナの模造体と戦うことになる。敵として戦ったこともあるけど、進化もしたし、すでに仲間になった者を…」
「くどいのぉ!しゃっきりせい!似ていても、見た目が同じでも妾はここにいる妾だけじゃ。気にせずぶっ飛ばしてまいれ。」
「ありがとう。シラナが仲間でいてくれて本当によかったよ。」
「そう言ってもらえて何よりじゃ。ほれ!さっさと踏破して皆の元へ戻ろうぞ。」
シラナにしっかりと背中を押してもらってダンジョンにはいった。
前回の続きの階層から始める。
ボス部屋までの赤鎧と白鎧の数が少し増えている。
朝イチの準備体操にはちょうどよかった。
「どんどんこい!ボス戦まで体温めさせてくれよ!」
囲まれようが、後ろから追われようが来るものすべてを斬り伏せる。
ボス部屋の扉の先に待っていたのは…
「やっぱりラーストか。」
ラーストはまだほかの神獣ほど成長してないので、まだヴァンパイアとしての姿にはなれていない。今はジャイアントバットである。
それでも翼を広げれば全長2mを超えるし、猛禽類の様な鋭い爪や強靭な牙をもつ。しかも怪音波を出してデバフをかけてくる。
「グリードやプライドほどの力はないけど、決して侮れない相手だな。」
空中で射抜くのは難しいだろうからここも翡翠で接近戦するしかないか。
ラーストの元へダッシュすると途中で転んだ。
「なんだ!?」
立ち上がってみても何も不調はなさそうだし、足に何か引っかかった様子もない。
「怪音波か。さっそくやってきたな。」
怪音波によって平衡感覚が乱されたようだ。
風魔法で周囲に障壁を張りながら壁を蹴りラーストに接敵する。この障壁があれば音波は俺に届く前に散ってしまうのだ。
さすがに翼のある生き物を空中で捉えるのは簡単にいかない。
「飛んだままじゃあいつまでたってもキリがないな」
俺は手をラーストにかざして重力魔法をかけた。
押し潰されそうになる程強い重力のため身動き一つ取れないようだ。
「ラーストは俺と戦うならもう少し育ってからだな。」
高く振り上げた翡翠でスパッと首を落とした。
下層に降りる階段が出現したのですぐさま降りる。
まだお昼になってないからどんどん攻略していけそうだ。
「みんなに背中を押してもらって来たから昨日の様にはならいな。そこまで気分が滅入ってないからまだまだ余裕があるぞ。」
ボス部屋に到達した先にいたのはシラナだった。
「これも想定内だな。でも前に戦った時は進化前だからな〜どこまで強くなったか楽しみだ!」
シラナが本来の大きさになれるほど大きな空間だ。彼女の全力をださせるつもりのようだ。
大きな口をあけて力を溜めている。
「いきなりブレスかよっ!」
走り回って狙いを定めさせないようにした。
それでも強力なブレスは迫ってくる。
「前と違ってここは海じゃないから本気が出せないなんてことはないよな!?」
走り回った先にはシラナの巨体がすぐそばまで近づいていた。
「ま〜ず一発だ!」
走った勢いと振りかぶった翡翠で斬りかかる。
スパッと切れた胴から先は水になり消えてしまった。切った本体はそこからまたすぐに再生して元通りになった。
再生に気に取られている間にシラナは魔力を練ってまた大技をくりだした。
「ここ、洞窟だぞ!?なんで波がくるんだよぉぉぉ〜」
シラナを中心に津波が襲いかかってくる。
土魔法で俺の周りをぐるっと囲むように岩の壁をだして事なきを得た。
ただ、シラナの猛攻がそれでも終わるわけもなく、頭上には無数の氷の欠片が浮いている。
すかさず岩の壁を頭上にも生成して盾を作る。
ガガガガガガガガガ…
氷の雨が降っている。
音が止んだところで岩を解除するとそこには大きな口をあけたシラナが待ち構えていた。
出たところにブレスを吐いてきた。
とっさに結界魔法で障壁を張る。
「防戦一方だな。」
障壁を拡大していく。広げていく障壁でシラナを壁まで押しやってそのまま押しつぶそうと魔力を込める。
「なかなかしぶといな。」
壁に押し込み、めり込み、そのまま押し続けると抵抗しようとしていたが身動きが取れないようで止まったところでシラナは消失した。
「え?終わり?再生できるのに押し潰せた?もしかしたら核になる部分を潰せたのかな。」
階段が現れたのでさらに下へ降りる。
「やっとか。」
「いらっしゃい。ここまでよくがんばったね。ここがこのダンジョンの最終試練だ。」
目の前には翼を大きく広げた天使がいた。
「ずいぶんと意地クソ悪いダンジョンだったな!仲間に剣を向けさせるなんて…」
「君にはその資格と力があったからね!」
「資格?」
「そう。神器をもってるでしょ?そもそもそれのおかげでここのダンジョンが開いたんだし。君以外の攻略者は20層にてそこに入ったパーティ全員の模造体と一斉に戦って勝てば踏破になるようになってるよ。」
「…はぁ」
「君にはジリジリと追い詰められる経験が必要かと思ってね。その強さがあるとなかなかそんな経験できないだろうし。力だけで勝つのは慣れてるだろうけど、戦いがすべて力で解決できるとは限らないのだよ。」
「たしかに…」
「でもさっきのシラナとの戦いはやられたよぉ。せっかく本物とは違って無限再生ってのを核に付与したのにその核ごと押し潰すなんてさ。さすがにあのパワーで押され続けると再生範囲も再生スピードも間に合わないよ。」
「無限再生か…それはなんて厄介な。」
「あっ!自己紹介がまだだったね。僕はセルティエル。最後に相応しい。君から言わせると意地クソ悪い試練の最後を彩るのに相応しい相手を用意したよ。」
セルティエルの姿が消えたと思ったら2人の影が現れた。




